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桃香(tousyan)
【調教 官能小説】

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大きなうねり-2

「協力してもらえる?」
「ええ、喜んで」

 吉岡が会っているのは多国籍パブのホステス。
 貧しい地方の出身で、彼女自身は戸籍を持っていたが妹には戸籍が無かったと言う。
 桃香の活躍を知り、心から応援しているのを友人から聞いた吉岡が協力を願い出ると快く承知してくれた。
 と言っても彼女に危険が及ぶようなことは無い、吉岡がネットの掲示板をプリントアウトした物を翻訳してくれれば良い、ネット上での本音を探りたかったのだ。



「どうやら不買運動はやらせですね」
 次の会議で吉岡が切り出すと、出席者は身を乗り出した。
「どうしてわかる?」
「ネットです、すぐに消されてしまいますが、ネットの掲示板には本音が書き込まれます、どちらの言語にも堪能な人物に協力して貰って片っ端から読みました」
「本当は不買運動などなかった、そういうことか?」
「ほんの一部からだけです、どうやら不買運動そのものが党員を使ったヤラセだったんでしょうね・・・桃香は現地でも大人気ですよ、だけど既に市場からは消されていますし、新作も手に入らない、AVファンの間では不満が高まっています」
「そうか・・・でもそれがわかったところでどうすれば?」
「その不満を利用しましょう」
「どうやって?」
「海賊版を流すんです、その先をどうしても見たくなるところでぷっつり切ったものを」
「どうやって流す?」
「これまでにも海賊版には随分と悩まされましたからね、業者はいくらでも知っています、彼らに海賊版を安く売ればあっという間に広がります」
「売らなくていい」
「は?社長、この案には反対ですか?」
「いや、大賛成だよ、無料で流せ」
「あ、そう言うことで・・・ええ、仰るとおりに、日本のサイトに出してかまいませんか?その情報さえ流せば勝手に海賊版が出回ります」
「ああ、それくらいのことであの政府が動じるかはわからないが、すごすごと尻尾を巻くのも癪に触るからな・・・」

 元々非合法な商売をする連中、無料で手に入れたものが高く売れるとあればすぐに食いつく。
 そして、いくら摘発され、潰されても、新たな売り手が雨後の筍のように現れる、タマがある以上売り尽くすまで決して止めない。
 そして半端なものを見せられるファンの不満はマグマのように湧き上がる・・・。

 と、そこまでは吉岡の思惑通りだったが、事態は予想していなかった方向へ進み始めた。

 どんなに不満が高まろうと、政府は方針を変えようとはしない。
 作戦は失敗か?と思った辺りで新たな勢力が加わったのだ。

 それは桃香同様に戸籍を持たない者たち。
 社会の底辺の、そのまた底に沈んでいた者たちが立ち上がったのだ。
 失う物など命の他には何もない、片っ端から捕らえても後から後からわいて出るように現れる。
 彼らにとって桃香は象徴的な意味を持つに至っていた。
 社会的には『存在しない者』として扱われ、過酷な肉体労働に駆り出されるか性奴隷としての生涯を送るしかなかった、歳を取って体力が落ち、女性としての魅力が薄れればどうなるかも知っている・・・その同類である桃香が他国へ渡ってまばゆいスポットを浴びたのだ、そこに一縷の光を見出しても不思議はない。
 そして、その数は政府が推測していたより遥かに多く、億に届かんばかり。
 彼らはプラカードを掲げ、口々に叫びながらデモ行進する。
『我々に人権を』
『戸籍を寄越せ』
『我々の存在を認めてくれ』
『政府には我々が見えないのか?』
 そして、その思いの強さは一言に集約される。
『どうせいつかは闇に葬られるんだ、死など恐れるに足らない』

 ネットのない時代ならもみ消すことも出来た、しかし、誰もが携帯やスマホで動画を撮影することが出来、それを拡散できる手段を持っている現在では完全な隠蔽はできない。
 政府は公然の秘密でありながら、頬かむりして来た問題に向き合わざるを得なくなった。
 たかだかAVの輸入禁止・・・それが社会を揺るがす大問題にまで飛び火したのだ。
 


「その後はAV輸入禁止関連では何の動きもありません」
 吉岡が会議で発言している。
「撤回もしていませんが、それどころじゃないようですね、ましてこれ以上藪をつつくと何が出るかわかりませんからね」
「いやいや、ここまで事態が拡大するとはな」
「僕も予想してませんでした」
「自分で言うのもなんだが、たかがAVが国家を揺るがすとは思っても見なかったよ」
「桃香はどうします?」
「うん、そこなんだ・・・今すぐ引退させるのも妙だしな」
「ただ、いまや象徴的な存在になってしまいましたからね」
「ああ・・・時期を見て静かに引退させるのが良いだろう、桃香自身も戸惑ってるしな」



 その後、桃香の作品はリリースのペースを落とし、引退宣言をすることなしに静かに消えて行った。
 桃香が図らずも撒いた種は全土に広がったが、桃香自身はその運動の象徴となるような重責を担うだけの覚悟は無く、義母の目となりながら本国や日本の本を点字に翻訳してひっそりと暮らすことを選んだのだ。
 
 さすがに億に近い国民が一度に増えることに耐えられる国はない、それまで否定し、隠蔽し続けて来たものを一度に認めることも出来ない。
 しかし、それを闇に押し込めておけた強大な権力にも翳りは見え始め、あの政策に関しても罰則や追加課税が緩和されつつあると言う・・・。


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