喜びと痛み-1
陽が昇ると共にぱっちりと目を覚まし、窓を開けて朝靄の残る街を眺めながら新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「ん。今日は良い天気になりそう」
朝から元気なリョウツゥは素早く身なりを整えると、掃除に洗濯と部屋の中を忙しなく動き出す。
クアトリアに来て、植物園で働くようになり半年がたとうとしていた。
植物園の仕事は楽しいし、最近は緑の地域のコーナーを任せられるようになった。
ゆくゆくは陰送りで培った知識を生かし、菌類の栽培もしたいと思っている。
初めは人の多すぎるクアトリアの街に戸惑ったりもしたが、それにもだいぶ慣れた。
それに……。
(ぁ)
徐々に朝靄が消えていく中、ひとつの人影が見えた。
その影がハッキリと見えるとリョウツゥは顔を輝かす。
「おはようございます。ジルさん」
両手を口に添えて小さく声をかけると、その影の青い耳がピルピルと動いた。
同時に顔を上げたジルはリョウツゥを確認すると軽く手を上げる。
たまに仕事で朝早く帰って来るジルに挨拶するのがリョウツゥの楽しみ。
何の仕事かは知らないし、帰ってくる時間もまちまちなジルは疲れているのか声さえ出さないが、上げた手と振られる大きな青い尻尾の返事だけで充分嬉しかった。
ジルが部屋に入る音を確認すると、リョウツゥは朝食を作り始める。
サンドイッチと野菜と果物で作ったスムージーを作り、1人でのんびり食べた後、残りをタッパーと水筒に詰めて手提げ袋に入れた。
そして、仕事に行く時にジルの部屋のドアにひっかけておく。
「良かったら、食べて下さいね」
小さく声をかけるとパンパンと手を合わせて拝み、駆け足で仕事に向かった。
それが、リョウツゥの日常になった。
短いスカートを翻して走っていくリョウツゥの後ろ姿を、ジルはドアを薄く開けて見送る。
カウル=レウム王は狡猾な人物らしく、中々良い情報は入らなかった。
それもこれも1番初めに気付かれてしまったからなのだが、そもそもカウル=レウム王が本当に謎だらけなのだ。
産まれや育ちも分からない、名前も本物かどうか怪しい。
カウル=レウム王が選ばれた選挙さえも正当だったのか疑問が出てきた。