喜びと痛み-3
キアノは園長だが他にも仕事があるらしく、めったに植物園には来ない。
植物園を仕切っているのは副園長のヴェルメだ。
「おはようございます。お昼過ぎてますよ?」
キアノは太陽を指指してにっこり微笑む。
「はい。キリの良い所までやってしまいます」
リョウツゥはそう答えると腐葉土の山に向き直った。
キアノは苦笑すると腕捲りをしてスコップを手に取る。
「園長?」
「手伝いますよ。さっさと終わらせてヴェルメさんのお弁当を一緒に食べましょう」
お昼はいつもヴェルメの手作り弁当。
これも毎日の楽しみだ。
「はいっ!」
元気良く返事をしたリョウツゥは、更にスピードアップして腐葉土かき混ぜを再開させた。
「リョウツゥちゃんはやっぱり夜は見えないですか?」
「はぃ?」
ヴェルメの絶品弁当に夢中になっていたリョウツゥは、ふいにかけられたキアノの疑問に首を傾げる。
暫く内容を頭の中で繰り返し、咀嚼していた口の中身を飲み込むとお茶をひと口飲んで答えた。
「私は見えません。でも、夜でも動ける民も居ますよ?」
緑の民は翼があるだけに鳥類に近い。
それでもタイプが色々あり、高速飛行を得意とするものや長距離飛行を得意とするもの、夜でも飛行できるものなど様々だ。
リョウツゥは一般的な普通のタイプではないかと自分では思っている。
飛んだ事が無いから何とも言えないが、長距離飛行を得意とする民みたいに体力がある訳じゃないし、夜なんか暗くなるだけで目がシパシパして眠くなる。
バインは夜も平気なタイプだった。
「へぇ、そうなんですか」
「はい」
リョウツゥは何も気にせず再び弁当に夢中になったが、ヴェルメは怪訝な視線をキアノに送っていた。
その刺さるような視線に気付いたキアノはちょっと肩をすくめて立ち上がる。
「ご馳走さまでした、ヴェルメさん」
「うむ」
「僕はもう行きますが、リョウツゥちゃんはゆっくり食べててください」
「ふぁい。ありあとうおあいまふ」
口いっぱいに食べ物を詰めこんでいたリョウツゥはもふもふと答えて頭を下げた。
何とも可愛らしい姿にクスクス笑ったキアノは、ドアから出る前にヴェルメに目配せする。