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忘れ得ぬ夢〜浅葱色の恋物語〜
【女性向け 官能小説】

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知られざる思い-3

 彼女はそうやって年末年始を郷里の大阪で過ごし、また名古屋に戻ることになっていた。しかし彼女は職場にすでに退職願いを出していて、すぐに向こうの部屋を引き払って戻ってくることも約束した。
 帰ってきたら私と一緒に暮らすことも。

 シヅ子にはもちろん、私自身にも他に選択肢はなかった。

 帰省したその夜から、シヅ子はずっと僕の部屋で一緒に過ごした。
 二日後に、楽しみにしていた映画を二人で観に行った。
 『Hold me Tenderly』は甘く熱い恋愛映画で、恋人たちが何度も激しく愛し合うシーンがあった。ハッピーエンドの幸せな気分になる映画だったが、ヒロインがうつぶせになって恋人から愛されるシーンになると、シヅ子はうつむき、唇を噛みしめて涙を堪えていた。私はどうしたのだろう、と思い、彼女の手を握ると、シヅ子はその手に力を込めてきた。彼女はそれからエンディングまでずっと私の手を握りしめたまま離さなかった。
 もしかしたら、シヅ子は名古屋での男との出来事を思い出していたのかも知れない。しかし私はそれについて何も聞きたくはなかった。何があろうとも、もうシヅ子を絶対に離さない、という決意が私の中にはあった。そう考えるうちに私の身体はどんどん熱くなり、映画館のシートに押し倒してでも、その場でシヅ子と繋がりたい、と思うほどに興奮していった。
 その晩はもちろん、それから私は毎夜シヅ子の身体を求め、彼女もそれに応えた。シヅ子は帰ってきた夜のように涙を流すこともなく、元通り、私といっしょに燃え上がって熱くなり、感じ、満たされていた。買い置きしていた避妊具のゴムもすぐに底をつき、買い足さなければならないほどだった。
 そうやって繋がり合ううちに、私は恋人シヅ子の心が自分と共にあることを実感し、安心感が身体を満たしていった。

 しかし、年が明けて彼女が名古屋に戻ってしまうと、私は冷静でいられなくなってしまった。突然私の心と身体の中に凄まじい痛みを伴った嵐が吹き荒れ始めたのだ。
 嫉妬、憎悪、悲しみ、怒り、屈辱感、劣等感、敗北感、孤独感、寂寥感、空虚感……。そういった醜い負の感情が一気に心の奥から噴き出してきて私の胸を激しく締め付けた。夜になりシヅ子と抱き合ったベッドに一人で横になっていると、訳もなく涙が溢れ、何度も彼女の名を呟いていた。そしてそれからシヅ子が再び私の元に戻ってくるまで眠れない夜がずっと続いた。向こうに帰った途端、シヅ子がまたその男と燃え上がって抱き合い、繋がり合い、愛し合うのではないか、と疑心暗鬼に強烈に苛まれ続けたのだった。
 さらに、うとうとと眠りに入っていこうものなら、私は夢の中で二人が全裸で抱き合い、絡み合う現場を目の当たりにすることになるのだ。
 快感に身をよじらせながら喘ぐ彼女の上で顔も見たことのないそいつが大きく腰を動かし、その男の何も着けない赤熱したむき出しの猛り狂った肉と、彼女のひたひたと潤った粘膜が触れあい、じゅぷじゅぷと飛沫を飛ばしながら激しく擦れ合い、絡まり合い、深く交じり合って、二つの身体がどんどん熱を帯びてゆく。そして一気に二人は登り詰めて、彼女の奥深い、私すら入ったことのない神聖な場所に沸騰した液が躊躇なくどくどくと放出される――
 そんな光景がいつまでも頭の中にこびりついて離れなくなるのだ。

 ところが、自分でも信じ難いことに、そんな妄想を抱いた後、どうしようもなく身体が熱くなり、決まって強い射精感が押し寄せてくるのだ。そして知らず知らずのうちに手が自分の股間に伸ばされ、激しい興奮と共に登り詰めてしまう。愛する女性が他人に寝取られていることを想像しながら、そうやって性的に興奮している自分への不信感が募り、思いとは裏腹な身体の反応が、苦しみ以外の何物でもない感情と激しく拮抗して私の心を容赦なく痛めつけるのだった。
 ある夜、そんな夢をみて飛び起きた私は、熱く火照る身体に苛立ちながらベッド脇のサイドテーブルの引き出しを開け、コンドームの箱を手に取ると、床に思い切り叩きつけた。
「何でそんなヤツに躊躇いもなく中に出させる! ワタシが、ワタシが今までやってきたことは一体何だったんだ!」
 そして止めどなく涙が溢れ続けてどうしようもなかった。

 私がそんな風に、身体の中のすべてを真っ赤に焼けた鉄の爪で掻きむしられるような気持ちになったのは生まれて初めてだった。



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