進藤瀬奈として。-5
結局お互い燃えてしまい、最後までしてしまった。青空の下、堤防の先で快感の余韻に浸る二人。海風が爽やかで物凄く気持ちが良かった。
「なんか、燃えたね。」
海斗が頭をかきながら言った。
「良く考えるとこんなとこで…恥ずかしいね。」
着衣を直す瀬奈。しかし何とも言えないスリルを感じたのも確かだ。お互い見つめ合い、照れ笑いを浮かべた。
魚も昼休みのようだ。ちょうど竿がピクリともしない時間帯。二人はのんびりと海を見つめていた。
瀬奈の視界には自分が飛び降りた崖が映る。激しい雨風の中、あの足も竦むような高い高い崖から飛び込んだ記憶は今でも鮮明に残っている。しかし何故だろう、気持ちは穏やかだった。
「海斗、私ね…、竜宮城に行きたかったの。」
微笑を浮かべながら穏やかな口調で話す瀬奈。
「竜宮城…?」
「うん。もう何もかも嫌になってね、私はあの崖から海に飛び込んだらきっと竜宮城に行けるんじゃないかって本気で思ってたの。自分を誰も知らない場所で時間を忘れて、ただ笑顔に包まれて…。そんな居場所が欲しかったんだぁ…。」
「ところがどっこい、変なオヤジに釣り上げられてまた嫌な現実に引き戻されちゃったってか!」
瀬奈はニコ〜ッと笑い首を振る。
「ううん?竜宮城に来たわ?私。」
「ん?どうゆう事??」
「私にとって海斗との生活が竜宮城そのものだもん。みんな優しくて、親切で、毎日が楽しくて、こんなに笑える。私はこういう生活がしたかったの。だからやっぱり崖から飛び降りて良かったぁ。竜宮城に来れたんだから。」
海斗はそうゆう考え方もあるのかと思いつられて笑顔を浮かべた。そして次の瞬間、瀬奈はその笑顔を崩さずに、海斗をじっと見つめて言った。
「でもいつまでも竜宮城にはいられないんだよね。竜宮城で楽しい思いをした何百倍の厳しい現実に戻らなきゃいけないのよね。でも私は竜宮城での思い出を胸に頑張ってやっていけそうな気がする。」
「瀬奈…」
瀬奈の言葉は自分の意思を伝えるとともに、海斗を苦しめたくないといいう優しさに溢れていた。笑顔が切なく見える。
瀬奈は海斗の肩に頭を傾けチョコンと乗せ、暫くそのまま海を見つめていた。