笛の音 3.-10
有紗の手の中で巨根が猛然と脈打って、コンドームの中に夥しい精液を排出してきた。前回は肛交の緊張もあったのだろう、直腸で受け止めた時に放った量よりも多かった。明彦は痙攣しながら、浮かしていた腰をソファに下ろしていったが、有紗は追い打ちをかけるように、ギュ、ギュと指を絞めて、淫欲の隷徒となった敗北の証を残滓まで吐き出させる。射精したばかりの男茎を強く握られて、最早明彦は子供どころか、女色に染まったかのような鼻声を漏らした。
明彦の体の上から降り、隣に身を寄せて座ってやると、明彦は甘えた鼻息を漏らして有紗にしがみついてきた。恥ずかしさを隠したいのか、胸乳に顔を埋め首を降ってくる。それがむしろ恥ずかしいんだけどな、と内心嘲笑いつつ、頭をそっと撫でてやった。
「気持ちよかった?」
優しい声で問いかけてやると、
「うん……、あ、……、いや、……ああ、き、きもちよかった……」
射精後の凪に入ってきたのだろう、有紗に抱かれて撫でられているのが急に恥ずかしくなったようで、必死に取り繕おうとしていた。だが目線を下ろして彼の体を眺めると、ズボンと下着が半端にズリ下ろされて、丸出しになった股間では、夥しく放った白濁が少し萎靡したために薄皮にできた皺を伝って根元から陰嚢へ垂れ落ちていた。どう繕ったって無様だと思った。
「……こっちのほうが気持ちいい、ですよね? 当然。お尻なんかより」
「そ、そうだ、ね……」
明彦が有紗の胸の中から離れて身を起こす。まだ息が咳いているが、顔を年上の男に戻した。表面だけ何とかした口元を有紗へ近づけてくる。ま、仕方ないか。恍惚の射精を迎えたばかりだ。自分に敬意を表したいのだろう。有紗は唇を少し差し出して彼を迎えてやった。
「んっ……、大好きだよ、有紗ちゃんっ……。ほ、他の女なんかに、流されるもんか……」
何に焦っているのかは知らないが、咽せそうになって愛しみを伝えてくる。いや、彼の声はこれまでとは性質が違う。もはや有紗への奉拝が溶け込んでいた。
「明彦さんが、気持ちよくなってくれてよかった」
バッグの携帯を一瞥。静かだ。結局一度も惨痛の叫びは聞こえてこなかった。もしかしたら悶死したのではないかとほくそ笑んでいると、
「……あぁ、……すごく気持ちよかったよ、有紗ちゃんの手……。ト、トラウマがあるのに、俺のために手でしてくれる、なんて……、もう、感動してる、俺……」
熱っぽく言われて、せっかく何をどうしていたか分からないよう電話に聞かせてやっていたのに、と有紗はキスに紛らわせて大きく舌打ちをした。途端に唇を吸われているのが嫌になって、明彦の体を押し戻して立ち上り、もう脚を見せているのすら厭われて、ズレ上がったタイトスカートを引っ張り下ろした。
「帰りますね」
突然言われた明彦は、
「あ……、お、送っていくよ」
と、腰を上げようとしたが、有紗は妖美の笑みも優しさに満ちた笑みも消し去った冷笑の口元で見下ろす。
「大丈夫です。明彦さんは……」
冷ややかな目線を股間に向けて、「後片付け、してください。風邪ひきますよ」
そう言うと、彼を振り返ることもなく玄関から出て行った。
マンションを出ると、まったく台無しにしてくれた、という憤りに、バッグを肘に掛けて腕組みをし、眉を寄せた顔を隠せずに歩いた。すれ違った男が、タイトミニから覗く脚を見てきたことにすら腹立たしかった。向かう先は決まっている――決められている。車内で見つかった変死体にパトカーと警察官が集まっているということもなく、ベンツは川に近い道の人気のない薄暗闇に愚劣に佇んでいた。
助手席に乗り込みドアを閉める。密室にドス黒い沈黙が充満していた。
「……帰んないの?」
信也はシートに身を預け、ハンドルを苛立たしげに指で叩いていた。横から見ると荒い呼吸で腹が膨らんでは萎んでいるのがよく分かる。「帰んないなら、私、電車で帰るけど」
ドアに手を掛けようとすると、肩を強く掴まれた。強引に振り返らされると、邪悪な手が服がどうなろうがお構いなしにバストを強く揉みしだいてきた。
「ちょっ、やめてっ……、痛いしっ……」
「……勝手なこと、するなっ……」
叔父の声は深く濁っていた。喋っていない間も、抑えられない怒りが声帯を震わせ、威嚇する獣のような唸りを漏らしていた。思っていたとおり、叔父は煩悶に狂っていたようだ。何故そのまま死んでくれなかったのだろう。あるいは、本当に明彦とノーマルなセックスをしていれば、たとえ性楽を味わえなくても、彼の巨根を讃える喘ぎを悩ましく漏らしてやれば、胸を掻き毟った果てに絶命してくれたのかもしれない。本当にそうなるという確約があったならば、明彦に跨った時、彼の男茎を体に埋めることも考えた。
「じゃ……、こんなことやめさせれば? ……誰かのと違って、森さんの、すごく大きいって言ってるじゃん。お尻、ユルユルにされたらたまったもんじゃないもん」
バストを蹂躙されながらも、有紗は叔父を睨み返して言い放った。
「有紗ぁっ……!」