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忘れ得ぬ夢〜浅葱色の恋物語〜
【女性向け 官能小説】

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重なり続ける罪-3

「あの女優さん、演技してるようには見えませんでしたね」
 神村は私に顔を向けた。「そりゃ映画だから。わざとらしかったら監督にNG出されるんじゃない?」
「それもそうですね」私は小さくふふっと笑った。
 私は神村から目を離し、天井を見上げて独り言のように言った。「まるで本当の恋人同士にように、すっごく満たされてるように見えました……」

「映画で二人が情事の後飲んでたの、ワインだったよね」
 私は思わず同じように仰向けになっていた神村に顔を向けた。「そうでしたね」
「向こうの人って、お酒っていったらやっぱりワインなのかな」
「わたしも好きです。ワイン」
「えっ?!」神村は驚いたように私の顔を見た。「ワインなんか飲んだことあるの? シヅ子ちゃん」
 私は照れくさそうに数回瞬きをして言った。「去年、人生で一番最初に飲んだお酒がワインだったんです。成人祝いで」
 神村はますます目を見開いて言った。「ワインなんてどこで買うの? 大阪には普通に売ってるの?」
「いえ」私は言いにくそうに続けた。「……友だちが好きで、わたしに勧めてきたんです。その人ワインのある店をチェックしてて、そこで買ってたんです」
「へえ。僕は飲んだことないなあ……。おいしいの? ワインって。甘いんでしょ?」
 私はにっこり笑って言った。「それはたぶんポートワインを甘くしたスイートワインです。彼が買ってくれるのは本当の赤ワイン」
 「彼……」神村は目をしばたたかせた。
 私は思わずしまった、という顔をした。

 不意に神村が私に身体を向け、背中に腕を回して柔らかく抱いた。そして躊躇いがちに言った。
「シヅ子ちゃん、いいのかい?」
 私は顔も上げずに神村の胸に顔を埋めたまま、くぐもった声で言った。「何がですか?」
「今さらだけど、君はその彼とつき合ってるんだろう?」
 私は少しこわばった顔で小さなため息をついた。「いいんです……。わたし、今はあなたに抱かれていたい……」

 神村は髪を優しく撫でた。私は顔を上げて神村の目を見た。「あなたこそ、奥さんがいるのに……」
 神村は腕を解き私の身体を解放すると、仰向けになり両腕を枕にして目だけをこちらに向けた。
「言っただろう? 妻とはもうセックスレスだって。それに事実上別居中」

 私は身体を起こし、乱れた襟足をさばきながら神村の顔を見下ろした。「そうでしたね……」
「男の身体って身勝手だ。いつも女性の肌を求めたがる」
「愛がなくても?」
「たぶんね。でも今の僕は違う」神村は私の目を見つめた。「僕は君が好きだ。僕は欲望のままに君を抱いてるわけじゃない」
 そして柔らかく微笑み、おいで、と言って両手を私に伸ばした。
 私は再び神村に身体を寄り添わせ、横になった。触れあった肌から伝わる彼の体温は、忘れかけていた人肌の心地よい温かさだった。

「君はどうなの? どうして僕を拒絶しないの?」
「……寂しいんです。貴男が仰った通り」
「彼と会えないことが?」
 私はこくんと頷いた。
「でも、だからといって僕とこんなことをしちゃ、」
 神村がそこまで言った時、出し抜けに私は神村に覆い被さり、乱暴に唇を彼の口に押しつけて、続く言葉を封じた。
 んんっ、と神村は呻いた。

 しばらくして口を離した私は、表情を硬くして言った。「貴男はそんなこと気にしなくてもいいんです。わたしが好きならその気持ちだけでわたしを抱いてくれればいい」
 神村は困ったような顔をした。

「わたしも貴男のご家族のことを考えないようにしますから……」

 昼に観た映画のせいか、私の身体の火照りは収まってはいなかった。横たわった神村の身体をそのまま抱きしめた私は、彼の目を見つめた。「来て、神村さん……もう一度」
「シヅ子ちゃん……」

 それから私と神村は夜が明けるまで何度も抱き合い、繋がり合った。

「神村さん!」私は喘ぎながら彼の名を呼ぶ。

「シヅ子!」神村は息を荒くして私の名を叫ぶ。

 神村が私の中で激しく暴れる。

 私は彼の全てを受け入れ、怒濤のように襲いかかる快感に身を震わせる。

 そして二人は一つになり揺れ動き、感じ合い、神村は私の身体の中心で弾け、私は彼に抱きしめられたまま何度も昇天したのだった。



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