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忘れ得ぬ夢〜浅葱色の恋物語〜
【女性向け 官能小説】

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重なり続ける罪-4

 私と神村の関係はそれからも続いた。
 週末になると神村は私を食事に誘い、そのまま街のホテルで熱い夜を過ごした。

 日もずいぶん短くなり、昼間もコートなしでは過ごせない時季になったある土曜日、敦子が私を半ば無理矢理誘って、タクシーで一緒に隣町まで行き、その繁華にある小洒落た居酒屋に連れ込んだ。

「最終通告」敦子が運ばれてきたカシスオレンジのグラスに手を掛けながら言った。「いいかげんに目え覚ましたらどやねん」
 私は諦めにも似た小さなため息をついた。
「あんたがやってることは不倫。社会的に許されざる行為。前にも言うたけど、神村さんのご家族にもあんたの彼にも罪を作り続けとるっちゅうことなんやで?」
 わたしはうんざりしたように言った。「わかってる」
「わかっとれへん!」敦子は大声を出した。「わかっとるんやったら、なんでずるずる続けてんのや?」

 私は目の前のジンジャーエールのグラスに着いた水滴を指で拭った。「わかってへんのはあっちゃんや」
「え?」
「わたしの気持ちなんかなんもわかってへん。わたしがあの人に遊びで抱かれとるとでも思ってるんか?」
 敦子は私を鋭く睨み付けた。「遊びやないんやったら、もっと問題やんか! 本気で神村さんに抱かれとるってことなんか? あの人の家庭を壊してでも、アルバートくんを裏切ってでも、これからずっと関係を続けるってことなんか?」

 私はしばらく口をつぐんでいた。
 注文していた生春巻きが運ばれてきて、テーブルに置かれた。

「あの人も、きっと寂しいんや」私はぽつりと言った。「奥さん、相手してくれへんらしいから……」
「理解できへん」敦子は吐き捨てるようにそう言って、白い皿に盛られた生春巻きを箸で取り上げた。「そんなん理由にならんわ」
 私は目を上げた。「わたし、アルを嫌いになったわけやない。そやから余計に寂しいねん」
 敦子は口をもぐもぐさせながら上目遣いで私を見た。「会えへんことがか?」
「彼の代わりにあの人に抱いてもろてる、っていうんは、たぶん正解や。身体を癒やしてもろてる、ってことなんや思うわ」
「神村さんも同じように思てる、ってことなん?」
「たぶん……」

 敦子はテーブルの真ん中に置かれた皿を私の方に寄せた。「シヅ子も食べな。結構いけるで」
 私はうん、と頷いて箸を手に取った。
「わたしが一番心配するんは、あんたがアルバートくんのこと忘れて、神村さんだけに本気になってもて、家族から奪うてやろう、なんて考えるようになることや」
「それはない……」私は手に取っただけの箸を元の箸置きに戻した。
「大いにあり得ることやとわたしは思うで。だって二ヶ月以上も続いてるんやろ?」

 私は小さく頷いた。

「今夜かて、わたしがここに誘わなんだら、今頃あの人と一緒の夜を過ごしてたわけやろ?」

 私はかすかに頷いた。

「そないして夜を重ね続ければ情も厚うなるし、だんだん離れ難くなることは十分考えられるわ。そう思えへんか?」
「……そうやな」
「むこうかて同じ。いつかあんたに本気になって、離婚するから一緒になろう、なんて言うてくるかもしれへんねで? その時あんたがはい、わかりました、言うたりすることなんか考えとうもないけど、あんたがその気でなかったとしても、最悪の場合あの人あんたに付きまとうて、あんたの彼や向こうの家族も入り乱れて、それこそ修羅場になるで」

「考えすぎやわ、あっちゃん」


 敦子は飲み干したカシスオレンジのグラスを持ち上げて、ホールにいた店員に向かって叫んだ。「すみませーん」
 店員はすぐに注文票のバインダーを手にやって来た。敦子は私と同じジンジャーエールを追加して、私に目を向けた。「シヅ、食べたいもの、あれへんか?」
 私は首を横に振った。
 敦子は店員に目を上げた。「ほな、シーザーサラダと串を適当に5本ぐらい持ってきてください」
 店員がテーブルを離れると、敦子は言った。「最近アルバートくんからの手紙、届いた?」
「う、うん。一昨日」
「何て書いてあったん?」
「別にいつもと変わらへん。お店がどうやった、とか大阪は寒うてかなわん、とか」
「アルバートくん、何も知らんと……不憫やな……」
 敦子は皮肉たっぷりにそう呟くように言って、届いたジンジャーエールのグラスをすぐに口に持って行った。

 アルバートからの手紙には、実は他のことも書かれていた。今度、年末に私が帰郷した時に、一緒に映画を見よう、梅田の映画館なら帰って来る時まではぎりぎり上映中だから、と。

 そしてその映画は確かにアルバートの好きそうな恋愛ものの映画だった。『ホールド・ミー・テンダリー』。

「あっちゃん、もう飲まへんの?」
 敦子は肩をすくめた。「わたしだけ飲むのん、おもろないわ」
「そう……」
「せっかく居酒屋に来てんのやから、もっと楽しゅう飲みたいやん。今日はあかんわ」
「……ごめんね、あっちゃん」

 敦子はテーブルに肘を突いて身を乗り出し、念を押すように言った。「少なくともアルバートくんや神村さんの家族が、今のあんたたちの関係を許すはずあれへん。そやから一刻も早く切るべき」

 私は、自分のことを本気で心配してくれている目の前の友人の顔を少し瞳を潤ませて見つめた。彼女の顔はぼんやりと白く曇って見えた。

 学生時代から少しも変わらない愛らしいボブカットのその友人は、右手で私を鋭く指さし、かわいらしいその容姿に似つかわしくないドスのきいた凄みのある声で言った。「最終通告」



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