裏切りと凌辱の夜A & 新たな恋の始まり-6
10分ばかり立ち話をし、その間に美山は上手に奈美を楽しませていた。
さりげなく容姿を褒め、求められたファッションアドバイスには押しつけがましくない程度に答えながら。
次第に奈美の表情が華やいでいく。
基本的に好印象な男ではあるのだ。
美山が話の途中で腕時計に視線を落とし、残念そうにため息をつく。
「そろそろ戻らなきゃいけないな。奈美さんもぜひ、今度彼氏とご一緒にお店に遊びに来てくださいね」
「……あの、わたし彼氏とかいないから」
「ええっ、こんなに美人なのに? 信じられないな、僕が立候補したいくらいですよ」
さらりと付け加えられた美山のリップサービスに、奈美がうつむいて頬を赤くする。
じゃあ、また。
仕事に戻っていく美山の後姿を、奈美はうっとりとしたまなざしでいつまでも見送っていた。
「美山さんって……すごく綺麗っていうか、カッコいいね。それにすごく優しいし。あんな感じの人、初めて見た」
「そう? ちょっと口が上手いだけだと思うよ」
「でも、あの人だったらきっと本当は彼女いるんだろうな」
「え、そんなに気に入った? やめときなよ、男は他にいくらでもいるんだから」
なにもあんな事故物件に手を出す必要はないだろう。
そう言いかけて、慌ててやめた。
「ほんとにもし彼女いなかったら、わたしと付き合ってくれたりすると思う?」
「いや、決まった彼女とかはいないと思う、けど」
奈美の目は真剣だ。
どうしよう。
どんどん本当のことが言い出しにくくなっていく。
「付き合うのは無理でも、あの人と仲良くなりたい。ねえ桃子、今度いつでもいいから美山さんのお店に連れて行って」
「べつにいいけど……」
桃子があまり乗り気ではないのを察したのか、奈美が恥ずかしそうに背を向ける。
「あのね、桃子からみたら馬鹿みたいに見えるかもしれないけど、わたしいままで一度も恋愛したことないんだよね」
「一度も? 片思いとかも?」
「うん、ない。だって、村では勝手に誰かを好きになるなんて、絶対にダメだってことになってたから」
大学に入ってからも、あえて異性との接触は避けていた。
だけど桃子のことを見ていて、このまま卒業して何の感情も持てない相手と結婚させられる人生に疑問が湧いていたところだという。
「いや、だから、わたしみたいなヤリマンに影響されてどうすんのよ」
うっかり大きな声が出た。
まわりの女性客がじろじろと視線を向けてくる。
しーっ、しーっ!
唇に人差し指を当てて笑い合う。
「とにかく卒業するまでの間だけでいいから、美山さんみたいな素敵な人と仲良くなりたいの。協力してくれる? 桃子」
「まあ、奈美がそういうなら……」
調子のいい美山のことだから、頼めばデートくらいは何度でもしてくれるだろう。
たしかに卒業までという期限付きなら、ああいう女慣れした男の方が面倒がなくていいかもしれない。
でも、いいのかなあ。
少々複雑な思いを抱えながらも、桃子は始まったばかりの奈美の恋心を応援したくなっていた。