夜の蜘蛛-6
そんな事しても罪は消えないし、軽くもならない。
光を分けて貰ったとしてもジルの闇の方が大きすぎる。
でも、彼女を手助けしたらとても気分が良くて浮き足立ってしまったのだ。
(まさか、また会うとはな)
2度目に会った時の印象は、馬鹿正直だった。
ちょっと聞いたらペラペラと身の上話をしたし、その話の中でも彼女は馬鹿正直だった。
飛べないからと言って素直に『陰送り』に従ったり、そこでも真面目に働くなど馬鹿げてる。
ジルだったら嫌な事には従わない。
仕方なく『陰送り』になったとしても真面目に働いたりしない。
ずっと影に居続けるなんて冗談じゃない……と、ここまで考えたジルは、ハッと気付いた。
(……オレも同じか……)
自分と同じだったから、自分を見ているようで苛ついた。
なのに彼女は素直で真っ直ぐで穢れを知らなくて……。
(……名前……なんつったっけ?)
最後にキスをされた頬を擦り、ジルは考える。
最初に会った時、なんか言ってた気もするがちゃんと聞いていなかった。
緑の地域独特の発音だった、と思うのだがはっきり思い出せない。
うーん、と頭を捻りながら歩いていたらアパートの前が騒がしかった。
「?」
どうやら引っ越しのようだ。
背の高い赤の民の女性が、その姿に似合わない可愛らしいチェストを肩に担いで運んでいる。
「あ」
その赤の民の後ろからちょこちょことついて歩いているのは、あの時の小さな鳥だった。
小さな鳥は赤の民に申し訳なさそうに謝りながら歩いている。
「ごめんなさいごめんなさい」
「構わない。私には軽いから。しかし、やはり一人暮らしは危ないと思う。今からでも遅くない。一緒に住もう。うん、そうしよう」
赤の民は一方的に決めつけてくるりと回れ右をした。
「きゃうっ」
ペコペコと頭を下げて歩いていた小さな鳥は、勢いあまって赤の民の豊満な胸に顔を突っ込む。
「うむ。すまない」
「ごめんなさいごめんなさい」
全く気にしていない赤の民に小さな鳥は忙しなく頭を下げていた。
(相変わらず落ち着きねぇ奴)
何となく隠れたジルは、物陰で思わず吹き出す。