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飛べない鳥の飛ばし方
【ファンタジー 官能小説】

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夜の蜘蛛-5


 まず、個人の見分けがつかない。
 名前と、その人物が何を得意とするか、不得手とするか、どんな仕事を回せば良いか、今現在何をしているのか、などは恐ろしい程記憶しているのに、その人物がどんな背格好をしているかは覚えられないのだ。
 だから仕事の報告に行く度に名前を伝えるし、報告中も何度も聞かれる。
 あと、あの異常な性癖には正直ついていけない。
 サディストなのも大概にしろと突っ込みたいぐらいだ。
 人の肉喰らって、血まみれでセックスして何が楽しいのか理解できない。
 世の中のサディストが聞いたら「一緒にするな」と怒られそうだ。

「うーん……とりあえず、傷が治るまではゴーグルかな……」

 カウル=レウム王は銀の民の特徴も持っているので鼻が良い。
 前回、傷つけられて血を残してしまったのできっと臭いを覚えられた。
 傷口がしっかり塞がるまでは近づかない方が良いと判断したジルは、起き上がって真っ暗な部屋から出て行った。


 昼間の繁華街の閑散とした裏道を歩き、組織が準備したアパートに帰る。

 つい最近までは別の街を中心に仕事をしていたジルは、クアトリアには報告でしか来た事がなく、来る時はいつも夜中か朝方だった。
 ジルにとってクアトリアはスパイディが居る、というだけでおどろおどろしいイメージしかなかったのだが、真っ昼間の明るい太陽の元で見るクアトリアにはしゃいでしまった。
 発情期でもあったし気分が高揚していたのもあるが、あまりのイメージの違いにテンションだだ上がり。

(だから失敗したんだよなぁ〜)

 偵察の時は静かに冷静に、発情期が重なる場合は鎮静剤も飲んで……が当たり前なのに、鎮静剤を忘れたうえにカウル=レウム王達の話を聞いてウキウキしてしまった。
 だから秘書の動きに対応出来なかったのだ。

(ああ、それとあれも原因かなぁ)

 色々思い出していたら小さな鳥が頭の中を掠める。
 始まりの泉で願い事をしていた小さい黒い鳥。
 小さな事で一喜一憂して、小さな事にも一生懸命で……苦労知らずの小娘が第一印象。
 そんな子を手助けしたら、少しは罪が軽くなるかな?なんて思って手を貸した。
 その光を分けて貰えるのではないかと思って……。



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