H.-9
帰宅したのは19時ちょっと前。
何か買っていないと不自然かと思い、駅前のスーパーで美味しそうなポテトサラダを買った。
「ただいまー」
リビングへと繋がるドアを開けると、湊がお笑い番組を見ながらケタケタ笑っていた。
「おう、おかえり」
湊は振り返って陽向を見た。
「ポテトサラダ買った」と、右手を軽く上げ、湊に微笑む。
「いーね。タマネギ入り?」
「入ってないよ」
「やっぱ?お前タマネギ嫌いだもんな」
湊はヘラヘラ笑いながらテレビに向き直った。
無意識に溜息が漏れると同時に湊が爆笑する。
なんだか心苦しい。
陽向は冷蔵庫を開けて、適当に食材を取り出して夕食の準備を始めた。
すると、湊が「俺もやる」と横に来た。
「いーよ、疲れてるんでしょ?休みの日くらいゆっくりしてなよ」
「忙しくて疲れてんのはお互い様だろーが。つべこべ言わない」
なんでこんな日に限って優しくするの…。
いつもみたいに「あざーす」とか言ってテレビ見てればいーのに。
身体も心も傷付いて癒しを求めている時に限って、こういうことになる。
大好きだから…湊のことが大好きだから、今日のことを考えるとどうしようもなく胸が苦しくなる。
「あんだよー、今日もまたオムライス?」
「…うるさいな」
「ま、いっか。ひな坊オムライス好きだもんな。あ、今日チキンライスじゃなくてバターライスにしよーぜ。バターあるっしょ?」
「ん」
湊が「バター…バター…」と呟きながら冷蔵庫を開ける。
「あったー!俺バターライス作るから、お前野菜切る係な」
「…はーい」
「乗り気じゃないね」
「そんなことないよ」
湊は陽向の頭に手を置いて「自炊の腕前見せてよ」とケタケタ笑った。
調子狂うなぁ…その笑顔。
そう考えながらぼーっと野菜を切っていると、案の定指を切ってしまった。
「ぎゃぁぁぁ!」
「え?!おい!」
「ゆ…指切った…。痛い…」
「お前そーゆートコ、アホだよな。絆創膏ねーの?…つーかどこしまった?」
「そこの引き出し…」
フライパンの火を止めて湊がソファーの横にある引き出しを漁り「あったあった」と呟く。
絆創膏を持ってきて陽向の右の人差し指に巻く。
「これで自炊してたとか信じらんねー」
「うっさい!黙って」
「あーホラ、そーやってすぐ怒る。俺が拾ってやったコトに感謝しろ」
「あーうざい」
「はぁ?やんのかコラ?」
「もうホントに湊……ばか!」
陽向がそう言うと湊はまたケタケタ笑った。
「ケンカすんのにバカって言われたら笑っちまうだろ。そーゆートコ可愛いなひな坊は」
湊は陽向の頭に手を伸ばし、グッと引き寄せると掠めるだけのキスをした。
「明日、休み?」
「うん…」
「俺も休み」
「そーなんだ」
「そんなキラキラした目しても、なんもあげねーよ、バーカ」
ガシガシと頭を撫でながら、湊はコンロに火を灯した。