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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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H.-6

マンションのエントランスに着き、瀬戸にメールする。
『908』と返ってきた瞬間、ガラス板にその番号を指でタイプするといとも簡単に扉が開いた。
エレベーターに乗り、9階を目指す。
908号室のインターホンを押す。
「あ…風間です」
「はい。開いてる」
インターホン越しに曇った瀬戸の声が聞こえた。
ドアを開けると、懐かしいような緊迫した匂いが身体を包んだ。
「お邪魔しまーす…」
長いようで短い廊下を歩き、リビングと思われる部屋に繋がるドアを開ける。
「おぅ。お疲れ」
黒のロンTにグレーのスエットを身に付けた瀬戸が、切れ長の目で陽向を見た。
黒髪のパーマ?天パ?
病棟じゃ横分けで爽やかなイメージだけど、休日となると何もしていないので髪が散らかり放題だ。
物静かげなクールガイに見える。
「あの…USB……確認お願いします」
陽向は瀬戸に持ってきたUSBを差し出した。
瀬戸はそれを遠慮なく受け取り、既に起動していたパソコンに差し込んだ。
フォルダをクリックし、ページを開く。
「そこ、座りなよ」
瀬戸が横目でソファーをチラ見する。
陽向は「失礼します」と言ってそのソファーに腰を下ろした。
カチカチとマウスをクリックする音が静かな空間に響く。
今度はEnterキーを押しながらパワーポイントを読み進めていく。
「まー、いーんじゃねーの?本番、お前がこれにプラスアルファで喋んだろ?」
「はい。一応、原稿もあります…」
「ははっ。やるね。見せて」
今年度の教育担当係のリーダーは瀬戸が抜擢された。
師長からもお気に入りで、去年から教育委員会にも出席している。
顔は良いし、仕事も出来るし、申し分ない人材だと思う。
女癖の悪さを除けばパーフェクトだ。
そんなひねくれたコトを考えながら死んだ魚のような目をしてソファーに座っていると「んー、まぁこれでいーっしょ」と瀬戸は陽向に原稿を渡した。
「…ありがとうございます」
「てかさ」
瀬戸は眠そうな目で陽向を捉えた。
「お前ら、ライブやんねーの?」
「はい?」
え、なんで…?
「お前らのライブ、ちょー楽しみにしてんだけど」
瀬戸はそう言うと、テーブルに頬杖をついて陽向に笑いかけた。
「え…あ……瀬戸さんに、バンドやってるって言いましたっけ?」
「聞いてねーよ」
「ですよね……?」
「お前のファンなの、俺」
「…は?」
「2年くらい前から」
陽向はその場で硬直した。
2年前は、瀬戸とは出逢っていない。
なんで…?
「いつだかにやったライブにワタルと行ってさ。その時はワタルの弟が出るって聞いてて。あ、お前の彼氏ね。そん時お前も出てたんだけど」
いつだかぶりにおしゃべりになる瀬戸。
陽向の方へは一度も視線を移さず、なんだか恥ずかしそうに話す。
「俺、高校ん時バンドやっててさ…ワタルもそれ知っててライブ誘ってくれたんだけど。お前絶対好きだよ、こーゆーのって。したらお前が出てたわけ。……率直な感想、言っていい?」
瀬戸はライブの話を始めてから初めて陽向を見た。
「すげーなって思った」
「……」
「今まで色んなライブ行ったよ。メジャーなのはもちろんだけど、友達がやってるやつとか、全然知らねーバンドとか。でも、お前のバンドはすごかった。なんで、こんなトコにいるんだろーとさえ思った。そんぐらいバックバンドが良いし、なによりお前の歌と煽りがすげー心地よくてさ。……あの時、結構酔っ払ってたけど、いくら思い返しても楽しい思い出しかなくて。来てた客みんな『最高だった』って言ってたぜ?」
瀬戸は陽向を見て優しく笑った。
「なんで、看護師なの?…お前ならあの世界でもやってけるんじゃねーの?」
「…それは」
「なに?」
「そーやって、色んな人に言われました。CD出せとかも言われました。でも、あたしたちのゴールはそこじゃないし、いい曲できたなって思ってライブで楽しんでもらうことができたら、それでいいなって。あたしがやりたいのは……音楽もそうだけど、看護師として人の役にたちたいと思ったからこの道を選んだんです。音楽も看護師も同じでしょ?誰かを思って、それを伝えるって……。あたしは、患者さんに元気になってもらいたいから、自分が出来ることは少ないかもしれないけど、言葉とか態度で患者さんを元気にしてあげたいって思ったからこの道を選んだんです」
「……」
「あたしは、そう思うんで…っ!」
頭が真っ白になる。
瀬戸に、唇を奪われたからだ。


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