遭姪輪廻 ☆-2
『ガタッ』
その衝撃音は、俺の部屋に来訪者が侵入した事を意味する。
嘲る姉の表情……
侮蔑の表情を浮かべる姉の表情……
何れにしても自殺物の“想い出”がひとつ、俺の生涯に記録されようとしていた。
品行方正、才色兼備の姉は、いったい弟の愚行を目撃し開口一番何というのであろう?
それともその年齢差故に、すでに三人の娘を持つ母でもある姉は、そっと見て見ぬ振りをしてくれるだろうか?
俺の思い浮かべる女性、その美しい女性は14歳も年の離れた姉であった。
どうやら俺の両親は頑張ってしまったらしい?
物心がつく頃、年の離れた“大人の姉”をはじめて認識した。
当時5歳だった俺にとって、すでに大学生だった姉はまるでもう一人の母の様な存在であったと思う。
しかしもう一人の母に対する、俺の第一印象は“嫌な女”であった。
幼心に芽生えた気持ちは、成長につれ徐々に確信へと変わって行く事になる。
“天は二物を与えず”と言う言葉を後に知るが、何故か気まぐれな神はその二物を姉に与えてしまった。
美しく賢い姉なら才色兼備で自慢なのだが、如何せんその性格は悪く弟の俺でさえ閉口するる程である。
この麗しい程に美しくも聡明な女性は、何故かその年齢を問わず“男”に対し先天的に憎しみを抱いている様にさえ思われた。
後にその姉が選択した教師と言う職業は、おそらく天職であったのであろう。
俺は幼少期に願った事を思い出す。
(気まぐれな神よ、姉に対し、いっそ三物目を与えたまえ)
もちろん、その三つ目が“優しい心”なのは言うまでも無い。
しかしそんな完全無欠の姉が、教職に就いてすぐに結婚し退職した。
相手は姉に似つかわしく“三つ目を備えていた”が、急逝した自姉の娘を養女として連れていた。
姉は自分が持ち合わせていない部分に惹かれたのか、周囲の反対を押し切る形でその相手と結婚した。
同時に俺はいつの間にか、“叔父さん”になっていた。
その姪の名は、恵利子と言った。
姪は成長と共に愛らしく育って行く事になる。
『ガタッ』
振り返った俺の視線が捉えたのは、姉の姿では無かった。
ヘッドフォンをしていた事で、玄関を開け階段を上り室内にまで来られて、その存在に初めて気付かされる。
物音に振り返ると、そこ在ったのは嘲る姉の表情では無く、酷く困惑し顔を紅潮させる美しい少女であった。
少女の名は磯崎恵利子、俺にとっては“姪”の存在にあたる少女。
「あっ、あっ、あの、あの、お母さんに頼まれて来たの。でっ、でも、家の中には誰も居ないみたいで…… そっ、それで最後にこの部屋に…… ごっ、ごめんなさい、私、帰ります」
はじめて目にしたであろう自慰行為、困惑し脅えながらも聡い少女は互いの体裁を整える為、精一杯の順応を見せ足早にその場を立ち去ろうとする。
「まっ、ま、ま、待って!!!」
下半身丸出しで陰茎をイキリ立たせた俺は、必死に少女に追い縋りその腕を掴むと部屋に引き戻す。
第三者がその場を目にすれば、即警察に通報される様な事案である。
「痛いっ、痛いっ、やだぁ、やだやだ、止めて」
折れそうなか細い腕を乱暴に捕まれると、その愛らしい容姿からは想像出来ない程抵抗を見せる。
それは幼いながらも、自然とその身に迫る危機を予見しての反応であった。
「いいから、来るんだ」
俺は力任せに、華奢な身体を後ろから抱きつく様に抑え付ける。
良く手入れの行き届いた黒髪が揺れ、えも言われぬ香りが俺の鼻孔奥を刺激する。
左手で口元を塞ぎ、右手で胸元を抑え付ける様に抱え込む。