浴室での愛撫-1
アパートの鍵を開けたとたん、桃子は玄関先にそのまま倒れ込んだ。
英輔から土産にと渡されたワインのボトルが、ガチャンと不吉な音をたてる。
高価な紫色の液体が、見る間に紙袋から染み出して床を濡らしていく。
だが、そんなことに構っていられないほど桃子は疲れ切っていた。
ほとんど寝かせてもらえないまま、いったい何度相手をさせられたのかわからない。
英輔の体は嫌いじゃないけれど、ものには限度というものがある。
スマートフォンはもう電池が切れてしまい、バッグの中で静まり返ったまま。
頭の中に、ユウの泣きそうな顔と子供っぽい笑顔が交互に映し出される。
ほんとにもう。
あの子、昨日もここに来たのかな。
何時頃まで待っていたんだろう。
ごめんね。
ごめん……。
薄れゆく意識の中、桃子は遠くで誰かの叫び声を聞いた気がした。