浴室での愛撫-4
細身の黒い綿のパンツに白シャツ、上にはベージュのスプリングコートを羽織っている。
散髪したのか、髪形もすっきりしてお洒落な感じになっていた。
少し着ているものが違うだけで、スウェットのときとは別人のように良い男に見えるから不思議だ。
ユウはベッドに寝たままの桃子を見て眉をひそめ、心配そうに手を握りしめてきた。
温かい手。
よくわからないけど、ホッとする。
怒っているようでもあり困っているようでもある、そんな微妙な表情。
「桃子、昨日何かあった? すごく顔色が悪いみたいだけど」
「……なんでもない、ちょっと疲れただけ。それよりユウのほうこそどうしたのよ、その服」
「ああ、これ? あの、学校に行くんだったら必要かなって思って買ったんだ。家にあるのはすごく古いし」
似合うかな。
照れたように頭をかくしぐさが可愛らしい。
「すごくセンスがいいし似合ってる。大学に戻る気になったのも嬉しいし、コンビニ以外の場所に買い物に出かけられるようになったのも良かったと思う。ところで」
「うん?」
「それ、誰に選んでもらった?」
無言。
顔がこわばっている。
何か口の中でもごもごと言い訳らしきことをしているが、だいたい予想はつく。
「そのコート、見せて」
しっかりした仕立て、上等の生地。
裏側についたタグのロゴを確認する。
やっぱり。
「これ、表参道のお店で買ったんでしょ? 選んでくれたのはお洒落な茶髪のお兄さんだよね? このまえ、そこまでわたしを送ってくれた美山くん」
「や、でもあの、言っちゃだめだって。桃子ちゃんが怒るから、それは内緒って言われてて」
「怒ったりしないから正直に言って。どうして美山くんのお店になんか行ったの?」
「さ、最初は行くつもりなんかなかったんだけど……でも……」
あの、その。
しどろもどろになりながら話すユウの言葉を、頭の中で翻訳する。
昨夜。
ユウはいつまでも帰ってこない桃子を待って、アパートのまわりをウロウロしたりドアの前でぼんやり立って携帯を弄ったりしていたらしい。
ところが奈美に声をかけられてその場に居づらくなってしまい、帰ろうとしたときに見覚えのある車が前に見たときと同じ位置に止まっていたのだそうだ。
『桃子ちゃん、たぶん今日は帰ってこないんじゃないかな』
『少し話がしたいんだけど、いい?』
そんなふうに声をかけられ、車に乗せられたらしい。
美山には約束が重ならないように、他の男たちと会う日を教えてあった。
桃子が英輔と会うときはたいてい朝帰りになることも彼は知っている。