浴室での愛撫-3
ベッドに寝転がったまま着信履歴を確認する。
ユウから数十件。
その合間にほかの男たち3人から一件ずつ。
中に坂崎の名前もあった。
あれ、坂崎さん久しぶりだなあ。
あのプレイは体力的にきついけれど、この現状をネタに一緒に笑って欲しいような気がする。
彼だけは、ユウに妙な嫉妬をしたりしないはず。
今年もう47になるはずの坂崎は、桃子にとって父親のような存在でもあった。
一瞬考える。
その間に頭を思い切り叩かれた。
「痛っ……」
「馬鹿、さっさとあの子に電話してあげてよ。他の男は後回しでいいでしょうが」
「……奈美ちゃん、何でそんなことまでわかるの」
「そのぼやーっとしたニヤけ顔見てたら、誰だってだいたいわかるよ。桃子の考えてることくらい」
はやく電話してやれとせっつかれて、ため息交じりにユウの番号を探す。
1回目のコール音が鳴りやまないうちに、いかにも機嫌の悪そうな声が聞こえてきた。
『なんで昨日帰ってこなかったんだよ。何回も電話したのに、ずっと待ってたのに!』
「いや、たまにはそういう日も」
『いまは何処にいる?』
「ん? 帰って来たよ。でも疲れちゃって寝てるところだから」
今日は会うのやめて明日にしよう。
そう言い終わる前に通話が切れた。
「あー、もう。あの子もうすぐ来るよ、途中で切られちゃった」
「あらまあ。なんていうか、よっぽど好きなんだねえ、桃子のこと」
奈美が感心したようにうんうんと頷く。
違う。
そうじゃないと思う。
もう言い飽きた言葉を、桃子はまたうんざりしながら口にした。
「あの子はほかに誰もいないだけ。四年も大学サボってコンビニしか行かずに生きて来たような子なんだよ。立ち直ったら、すぐにまともな彼女みつけるはずだから」
「でも、恋愛なんて普通そんなもんでしょ? 最初から永遠に続いていく保証のある恋愛なんて、聞いたことないし」
「う……まあ、ね」
「将来はどうだか知らないけど、いまはあの子、間違いなく桃子のことを好きだと思うし恋をしてると思うんだけど」
なんだか顔が熱くなる。
たぶんいま鏡を見たら、茹でダコよりも真っ赤になっていることだろう。
「よ、よくそんな恋だとか愛だとか恥ずかしいこと言えるよね……信じられない」
「はあ? 何人もの男と遊びまくって、さんざん恥ずかしいコトばっかりしてる桃子に言われたくないよ」
バーカ、バーカ。
お互いの頬を軽くつねったりして小学生のような罵り合いをしているうちに、ドンドンと玄関ドアが叩かれた。
「おっと、来たんじゃない? じゃあ、わたしはもう帰るから」
「うん、ありがと」
「アパートの壁薄いからさ……後で彼と盛り上がるのはいいけど、あんまりアンアン言わないでね」
桃子の声、大きいんだから。
「馬鹿! 変態!」
「あはは! あんまり激しいコトするんだったら、ホテルでやりなさいよ」
げらげら笑いながら出ていく奈美と入れ替わりに、見慣れない服装のユウがちらちらと奈美の後姿を気にしながら部屋に入ってきた。