嫉妬と欲望の夜-5
「そんなに想ってくれる相手がいるなら、その子ひとりにしちゃえばいいじゃないか。桃子は、ユウくんを恋人にしたくないの?」
そろそろと頬からうなじへと指先で撫でられていく。
びくん、と肩が震える。
弱い電流がピリピリと肌の上を流れていくようだった。
「あ、あの子は……わたしとは違うから」
「違う? どういう意味?」
「だらしないのは、たぶん今だけだと思う。少し充電したら、たぶん元のエリートコースに戻っていくから」
今日、ユウは大学に行った。
どうしても一人で行くのは踏ん切りがつかないと泣きそうな顔をするから、桃子が大学の門の前まで連れて行ってやったのだ。
取りこぼしている単位取得や卒業に向けて必要なことについて、あれこれ相談して来いと背中を押した。
根は真面目な男だから、あのまま何もせずに帰ってくるようなことはない。
「えーっ、なんか桃子すごく良い人みたいなことしてる。人助けだねえ」
「だって、もったいないじゃない。わたしみたいなのとは、きっとアタマの出来が違うんだもん」
「まあ、普通じゃまずそこに現役合格できないもんねえ。でも、ますますわかんないなあ、そのエリート捕まえておけば、桃子も将来安泰かもしれないのに」
「ううん、あの子にはもっと良い彼女見つけて欲しい。死ぬほど頑張って勉強してきたあげく、こんなヤリマンしか知らずに一生を終えるなんて可哀そうすぎるでしょ」
「そうかなあ。桃子もたしかにいろいろユルいけど、黙ってればお嬢様っぽいし悪くないと思うけどなあ」
黒髪ストレートロングであんまり化粧もしてなくて、話も面白いし。
僕はこういう子が大好きだけどね。
そう笑いながら、英輔は桃子を膝の上に抱き上げた。
白いブラウスのボタンが上から順々に外されていく。
まだうっすらと残るキスマークの跡が恥ずかしい。
なにしろ、美山の跡の上からユウにも思い切り強く吸われたのだ。
いったいひとの体を何だと思っているのか。
「ああ、でもユウくんの気持ちわからなくもないかなあ。マーキングしたいんだろうね、俺の女だぞ! みたいな」
「なにそれ、迷惑だから。そういうことするんなら、ちゃんとした彼女作ればいいじゃない」
「彼女になって欲しい女の子が、なかなかウンって言ってくれないから困るんじゃないか。本当は桃子も僕だけのものになって欲しいのに」
「……それ、いままで何人に同じこと言った?」
「んーと、覚えてない」
顔を見合わせて噴き出す。
こういう気楽な関係がいいと思う。
もうとっくに桃子は普通の幸せなんてあきらめている。
だからせめて、相手にしてもらえるうちは気に入った男たちの間でふらふらしていたい。
できることなら、その間に誰かに殺して欲しい。
衝動でも恨みでも、なんでもいいから。
いまでもずっとそう思っているのに、なかなかその機会が訪れてくれないからダラダラと生きているだけだ。