笛の音 2.-11
確かに信也に言われるまで気づかなかった。今日は言い訳が立たない。玩具や媚薬に強制されたわけではない。叔父の指で、舌で、股間で体をなぞりまわされ、脚の間を熱く緩ませているのだ。
「……有紗」
叔父が身を背けた有紗を再び仰向けに返し、自分は膝立ちになると美脚を開かせてきた。浴室の明るい照明の下で粘液塗れになった下肢があられもなく晒される。
「有紗、こっちを向け」
改まった叔父の声に思わず薄目を開けてしまった。無様にM字に割られた脚の向こうに、顔を擦り尽くした男茎が真上を向いて腹に付くほど猛っている。
「ほら、欲しいだろ? コイツが」ヌブッと音を出して男茎を扱き、「ん? どうだ?」
「あ……、あ……」
視界が霞む。思ってはいけない。
だが有紗の脳裏に、妹もまた今の自分と同じ格好をしているのかもしれない、と過った。そんな愛美の体を開かせた向こうにいるのは、彼女の恋人だ。
(な、直樹っ……)
自分は狭々しい部屋の中で彼の生身を一度知ってしまった。どう頑張っても、目の前のでっぷりとした体躯の男と直樹は重ならない。
「あ、あの……」
「ん? なんだ? 有紗」
「……、く、……、……くだ、さい……」
欲しくはない。本当に欲しい体は、今、別の女を抱いている。決して代わりにはならない。欲しがってはいけない――。
「ほら、挿れてもらうときは、何と言うんだった?」
叔父が先端でビタビタと花唇を叩いてくる。
「うっ……」
有紗は亀頭で打擲される毎に下腹を痙攣させて、整った美貌を泣き顔に崩し、顔を覆った指に額までローションが塗れているのを感じながら、「し……、信ちゃんの、おちんちん……、ください……」
有紗がそう呻いた瞬間、叔父は歓喜の奇声を上げて男茎を有紗の体の中に突き込んできた。
「うああっ!」
入るや否や絶頂に及んだ有紗の膣壁が嫌悪の幹を搾り上げていた。浴室に野獣の声を響かせて、叔父が弾ける水音を立てながら強烈な打突を繰り返すと、有紗もまた高い悲鳴を上げ続けていた。
「おおうっ! ふぁ、あぁっ、お姉ちゃんっ」
遂に叔父が灼熱の毒汁を注いでくる。「うああっ、ああ……、きもちいいよぉ、お姉ちゃんっ、お姉ちゃんっ……」
有紗の言葉が引き金になったことは間違いない。世迷言を呻きながら、射精してもなお腰を振り続けると、男茎はすぐに硬度を回復してそのまま有紗の体を抉ってきた。絶望はもっと寒々しい、空虚なものだと思っていた。しかし自分を呑み込んだ暗澹は、体を豪火で灼いてきていた。朦朧となる中、気がつけば膝を立てて俯せになり、マットに顔を付いて高く上げたヒップを後ろから姦されていた。
「ほら、有紗っ……、おちんちん、好きか? ん? ほらっ」
「うっ、ぁ……、んっ……! こ、こわれ……」
「壊すもんかっ、くっ……、有紗は俺の大事な娘だからな。……お、俺のおちんちんがあれば、他は必要ないっ……! 他の男のことを考えることも許さないぞ、有紗。忘れろっ……、ほら、忘れろっ! 気持ちよくなれ……他の男なんか見るなっ! ……考えるなっ!」
見事な曲線のウエストを両手で掴み、狂ったようにヒップに下腹を鳴らして突き挿れてくる衝撃に脳を揺らされながら、好きなわけはない、本当に好きなのはソレではない、と物狂おしさに手のひらを周囲に巡らせたが、ここはベッドの上ではなく、粘液が漂うエアマットにはしがみつける物は何もなかった。
「うあっ……! ……うぁあっ!」
有紗は顎からローションの糸を引いて身を起こすと、獣の姿勢になればより深く信也の男茎が入ってくることになるのも構わず、粘液に濡れる髪を揺すって浴室を見回した。どれだけ探しても、こんな時に限ってフルートの男はどこにもいなかった。
外苑東通りを暫く走ったタクシーがミッドタウン前に着いた時、まだレストランの予約時間には早かった。
「前みたいに俺が仕事で遅れちゃったらマズいって思ったんだけど……、案外早く着いちゃった。お腹すいた?」
大丈夫です、と有紗は目を細めた笑みで首を振った。ミッドタウン内のショップを二人で見て回る。誰がどう見てもデートだ。何となく、明彦はこの時間を設けたいから遅めの予約を入れたのかもしれないと思った。
「そういえば愛美ちゃん、元気?」
「元気ですよ。……何か最近、彼氏ができて浮かれてます」
ガレリアを歩くオープントゥを眺めながら言った。叔父より先に家に帰ると、夕食直前に愛美が帰ってきて、洋子がキッチンに入っている間に耳打ちした。昨日は変な相談してごめんなさい。もう大丈夫。
大丈夫? 何がどう大丈夫になったの? 有紗は疑問と直樹の像を押し殺しながら、よかったね、と頭をぽんと撫でてやった。
「おーそうなんだ。……愛美ちゃん、浮かれてそうだね」
八重洲で会った時の妹の様子を思い出したようで、明彦はクックッと押し殺した笑いを浮かべた。
「さっそく私、会わされましたからね。……確かに、カッコいい彼氏でした」
有紗はバッグを背負い直し、足元から目線を明彦へと移した。有紗を見ても明彦の笑顔は曇らない。よかった、イメージ通りの表情ができているらしい。「……あんな愛美にはもったいないかも、って思えるくらい」