る-5
「あの。永坂です」
やっとの事で自分の名前を言うと
「お待ちください」
と鼻先でドアを閉められた。
そのうち、ドタバタと中で動く気配がして
ガチャガチャとチェーンをはずす音がした。
「夢」
着崩れたパジャマと、ぼさぼさの髪。
少し伸びたひげと、初めて見るメガネだった。
「・・・・」
「来てくれたんだ」
やっとのことで弱く笑う篠塚さんに
私はなんて言ったらいいんだろう。
そんな私たちの微妙な空気を断ち切るように
さっきの女の子が
「篠塚さん、寝ていないとだめですよ。
おかゆは作っておきましたから。後で食べてくださいね。
テーブルに風邪薬を置いておきました。
食後に飲んでください。ポカリも飲んでくださいね。
では失礼します」
そう言って帰って行った。
何?あれ?
「ごめん。立ってるの辛いんだ。入る?」
「あ。ごめんなさい。寝てっ」
靴を脱いで篠塚さんをベッドまで引っ張って連れていく。
さっき買った薬。いらなかったな・・・
ぼーっとそんなことを考えていたら
篠塚さんが言った言葉が耳に入らなかった。