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笛の音
【父娘相姦 官能小説】

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笛の音 1.-34

「……女の敵」
「え?」
「直樹、カッコいいもん。今でも」
 有紗は直樹の手首を取って、指に唇を触れた。「きっと、その子、直樹のこと大好きだよ。そんなこと言ったらかわいそう」
 この部屋まで導き、誘い、体を開いておきながら、有紗はそう責めた。だが心の中では、まだ容姿も人柄も全く想像できない「直樹の彼女」に妬みを覚え始めていた。だから彼女の話題をするのは嫌だったのだ。
 そして、直樹を責めたのは、有紗に直樹に対する期待があったからだ。
「……でも、俺、有紗さんが好きなんだ」
「約束通り、させてもらったから?」
「ちがうっ」
 有紗が問うと、直樹が有紗の上体に腕を回して引き起こしてきた。「中学の時からずっと好きだよ、やっぱり。もう……、離したくない」
 これを期待していた。ヒドイ女だ。だがヒドイ女になってでも、直樹に好きだと、離したくないと言ってもらいたかった。有紗は直樹の裸肩に手を置いて、
「じゃ、セフレにしてくれる?」
 と言った。すると直樹が眉間を寄せて有紗を睨む。本気で怒っている。そう、次にこう言ったら直樹に怒って欲しかったのだ。
「しないよっ……」
「だって……、どうするの?」
「別れるよ。ちゃんと別れる。明日、会ってちゃんと言う」
「……ひどい。やっぱり、女の敵だ。ちょっとカッコいいからって。直樹、昔は純情でイイ子だったのに、もうそんな――」
「有紗さんといれるなら、どう言われたっていい」
 有紗の言葉は途中で打ち切られ、汗の乾き始めた頬にキスをされた。ヒドイ女と、女の敵。夢のようだ。どんな卑しい願望も有紗が願うとおりに現実になっていく。
「じゃ、私も別れさせるの……?」
「……」
 有紗に問われて直樹が詰まった。優しい彼は、自分はどれだけ下賎な男に堕ちても構わないと思ってはいても、有紗にそれを強いるのは躊躇われたようだ。だが心配ない。明彦は彼氏ではない。
 あの忌まわしい男――、自分から処女も直樹も奪い、思うがままに陵辱してくる陋劣な叔父以外の男と、汚らしい情欲ではない、恋慕を端としたセックスをしたかったのだ。それを明彦とするつもりだった。だが、目の前に直樹が現れた。誰でもいいから別の男に抱かれたいと思っていた有紗の前に、誰よりも抱かれたいと思っているその人が現れたのだ。
「別れてほしい……?」
「……」
「いいよ」
 有紗は敬慕のこもった笑みを浮かべて直樹を見た。「でも、……あの人、すごく嫉妬深くて、独占欲が強いの。……それでも直樹は、そうしたい?」
 一度思い通りになってしまっては、直樹を試したくなった。悪い女だと恥じながら、今日せめてこの狭い部屋の中だけでは全ての願いが叶えられたいと思った。あの男の業火にも怯まずに、七年前からずっと苛む世界にいる有紗を抱きしめ、庇い、手を引いて救い出して欲しい。
「……うん。有紗さんを俺のものにしたい。……守るよ、彼氏にどれだけ怒られても」
「わかった……」
 壁のデジタル時計を見た。入室時に受付で申請した時間まであと十五分くらいしかない。直樹にもたらされた愛情は、脚の間からシーツの上に全て流れ出てしまった。「直樹……。あと少ししか時間ない、けど……」
 そう言って直樹の肩に掴まったまま、幅のない寝台の縁ギリギリのところに膝をついて腰を下ろしていった。直樹の先端が媚肉の狭間に触れる。後ろに落ちないように直樹が背中を支えてくれた。
「んんっ……!」
 甘ったるい息を漏らしながら、直樹の男茎を体の中に埋めた。この気持ちよさはなんなんだろう。性具や媚薬がなくても、恋いる相手に触れられると忽ち潤ってしまう。薄汚い淫欲で姦される時と、たとえ感じる快楽は同種でも、満たされる心の麗しさがまるで異なる。
「う、っく、有紗さんっ……」
 なおかつ、こんな淫らな潤いを見せている自分の体で悶えてくれている直樹が愛おしくて仕方がない。
「んっ……、ああっ、直樹っ……。も、もう一回、出して……、はやくっ」
 薄目で彼の顔を見下ろし、脳裏に浮かぶ十五歳の彼が悶えている面姿を二重に重ねて、有紗は失われた約束を取り戻そうと愛情の限り体を畝らせると、直樹の男茎がせり上がってきて、喪失のあとに空いていた苦しみの太虚を、部屋に入った時から変わらぬ熱情で脚の間に溢れるまでに満たしてきた。
 角を曲がれば家のすぐ近くまで直樹が送ってくれた。人通りが途切れた隙を狙って、最後にもう一度口づけをした。茨城を離れるときの公園でのキスと同じ。その至幸の想い出すらも取り戻した有紗が、またね、と家に向かう時、直樹は、連絡するよ、と言った。ドアの鍵を開きながら、もう携帯電話の番号は誰にも変えさせない、と固く誓った。
 家に帰ると義父母ともに起きていた。濃密な時間の名残が人に知れないように、神田駅のトイレの鏡で身を整えていた有紗だったが、リビングに入るなり洋子の死角で信也が粘りつくような眼色で眺めてきたから、心中で身構えていた。他の男に抱かれていないか調べてやる――、直樹を取り戻した直後だけに、そんなことを言っていた叔父が本当に千里眼を持っているのではないかと怖くなる。


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