笛の音 1.-22
「ちょっ……、なにこれ。……変なことしないで」
「変なことぉ?」叔父が不機嫌だった表情から、一気にニヤついた表情に変わった。「有紗も知ってるじゃないか。……久々に有紗の大好きなオクスリを使ってやってるだけだ」
オクスリ、と聞いて、有紗は初めて姦虐された時の屈辱の感覚を思い出して、慌てて脚を開き、今度は叔父の目線を気にしている余裕もなく裾を捲ってショーツの中で蠢く張形の柄を手に取った。すると、それまでとははっきりと異なる量の粘液が、ドバッ、と、既にヌメリを充分に染み渡らせている体の中に注入される。
「うあっ……!」
怯んだ有紗だったが、ショーツの蓋を解いて引き抜こうとした。しかし手が震えてしまう。
「抜かないほうがいいぞ? もうたっぷりオクスリが入ったんだ……挿れっぱなしにしとかないと、ウズウズして耐えられなくなる」
叔父の言葉の通り、花園の奥まで浸された媚薬は、蠢く張形との相乗効果で一気に有紗の体を襲ってきていた。我慢しようとしても体が勝手に張形を搾ろうとしてしまう。
「……やあっ!」
信也がスマホをタップすると、有紗は一段と強まった振動にワンピースに手を入れたまま脚を固く閉じ、背を丸めてシートの上で小さくなった。腕だけを伸ばして叔父の二の腕を掴んで引き、
「や、やめて……。止めて」
と絞りだすような声で訴えるが、無情にも体の中の張形は総身に備えている粒の回転だけではなく、その竿じたいを撚らせてくる。媚薬は有紗の襞の一つ一つの奥まで滲み、表面ではない、肉体の奥から沸騰するような熱い疼きを誘引して、その漣を全身へ巡らせていた。
「……だめだ。合コンなんか行って男を引っ掛けようとした罰だ」
「そ、そんなこと、……してないっ」
「まだまだ着かないからな。ガマンできなくなったら、そこでオナればいい。シート汚すなよ?」
「はあっ……」
奥から蜜が噴出する蠕動が起こって、有紗は体を跳ねさせたあと、叔父から手を離し、自分の腰を押さえつけるように抱きしめた。
「何年か経つと技術革新もすごいもんだ。前のオクスリだったらイヤラしい体になった有紗には物足りなかっただろうけどな、今のは効き目も格段に進歩してる」
侮蔑の笑みを混ぜた信也の言葉を、有紗は遠くに聞こうと努めた。こんな淫行など低劣な男の耽溺だと貶めて嗤いたかった。道具や薬品を使って女を操ろうとするなんて馬鹿げている。どこにも睦まじさのない、淫楽だけでそれが叶うなんて浅はかだ。
だが自分は、恋慕を交わした相手とのセックスを知らない――
必死に言い聞かせようとしていた有紗の頭の中に、その思念が刺し込んできた。崩されると同時に、体が渇望に縮み、奥から蜜がまた漏れ出て呻いた。体中が接触を求めて、衣服にほんの僅かに擦れただけでも、爆ぜる快楽を撒き散らしてより強い刺激を求めてくる。
「くうっ……」
有紗は誰に対しての発したのか知れぬ、喉の奥から高く甘ったるい喘鳴を絞り出した。もう駄目だ、狂ってしまう。絶頂を迎えてしまえば、きっとこの体に渦巻く懊悩は和らぐ。
スカートの中に右手を入れた。低い唸りを上げる柄に触れた瞬間、振動が止まった。叔父を一瞥するとスマホに指が置かれている。止めてと訴えていたのに、いざ止まってしまうと、刺激がもたらされなくなった媚肉が渇求した。「オナれ」と強要されているわけではない。しかし何とかしなければおかしくなりそうな強迫に、有紗は長い睫毛を伏せて意を決した。
少し引いただけで、接面にもたらされる癒やしは峻烈だった。反射的に、あっ、と熱い息が漏れる。これまで叔父はホテルや自宅の密室に入るまでは姦虐を強いてこなかったのに、今日は有紗が合コンに行った不興に任せて車内でこんな淫らな行為を強要してきた。あまり逡巡し、時間をかけては叔父を悦ばせるだけだ。車内で自慰をする姿を長く見せたくない。
柄を握り、強く早く前後させると巻き起こるであろう快楽を確信しながら、有紗が目を閉じたままシートに凭れて、まさに開始しようとすると車が止まった。
「着いた」
火照って開いた睫毛が滲む薄眼にラブホテルの駐車場が見えた。さらに向こうには畑や小屋が点在している。何処かは分からない。いつも叔父は養女との密会が白日に曝されぬために、周到に縁もゆかりもない場所のホテルを選んでいる。一度行ったホテルには二度と行かない。
張形の柄から手を離せずにいた有紗の側のドアが開いた。労りなく二の腕を掴まれ無理やり降ろされる。異物感を感じたまま、有紗は蹌踉めきながらコンクリートで固められた駐車場に立たされた。
「ほら有紗、モタモタするな」
叔父は昂奮により粘りつくような声色になって背中を押し、無理やり歩かせてくる。左右の脚を一歩ずつ進めたところで、
「う……、っ、く、あぁっ……」
股関節が動くだけで、張形に媚壁が擦れ、下肢が爛れそうになってしゃがみこんだ。
「何してる。……車の中でオナニーしたくなるほど、早くお父さんとヤラしいこと、したいんだろ? ほら立って」