殻を破る-2
日曜日になり歩きで祖父母の家まで行く事にした。いい天気だ。程よい日差しが心地良い。2人は手を繋いで出かけて行った。
商店が並ぶ通りに出ると海斗を見かけた店の人が声をかけてきた。
「あれ?海斗君!とうとう彼女できたんかい!?」
「ば、馬鹿!違うよ!そんなんじゃねーよ!」
パッと手を離す。
「だよなー。そんな若くて綺麗なお嬢さんがまさか海斗君と付き合うはずないもんな!お嬢さん名前は??」
「瀬奈と言います。」
お辞儀をする瀬奈に店主は笑った。
「これからちょくちょく買い物来るかもしれないけど宜しくな!」
「ああ。サービスしてやるよ!」
気さくに話してくれる。どの店に行ってもそうだ。気さくに好意的に瀬奈に応対してくれた。
「みんなこんな感じさ。困った時にはみんな助けてくれる人ばかりさ。」
「うん。」
みんな優しそうでいい人ばかりだ。知らない土地で外に出るのが少し怖かった瀬奈だが街の人達との触れ合いでその不安は消えていた。それに加えてみんなに愛されてるんだな、と海斗を見て思った。確かに変人だ。しかしこれだけみんなに好かれる海斗は凄いと思った。自分も含めて海斗の魅力はこれなんだなと思った。
そんな瀬奈たが、思わず足が止まってしまった場所があった。それは交番だ。なぜなら行方不明状況の自分に捜索願いが出ているかも知れない。もし気付かれてしまえば強制的に帰されてしまうかも知れない。今、海斗から引き離される訳にはいかない。だから交番が怖かった。
「よっ!」
海斗は交番の中に向かって挨拶した。
「あ、海斗さん!どうしたんですか!?」
「ん?散歩。」
そう言った警官は瀬奈の姿に気付く。
「えっ!?ま、まさか…、彼女できたんですか!?」
椅子から立ち上がり驚いた。そんなにみんな海斗に彼女が出来る事が驚きなのかと少し可笑しくなった。
「ったくどいつもこいつも。違うわ!知り合いだ。訳あって暫く家で暮らすことになったんだ。あ、こいつ、高校ん時の後輩の船谷淳史ってゆーんだ。」
瀬奈は海斗の後方から緊張気味に挨拶した。
「瀬奈と言います。」
「あ、船谷淳史と言います。」
美人を前に緊張気味の淳史。
「この土地の事がまだ良く分からないから、力になってくれよな?」
「そ、そりゃもう!海斗さんのお願いなら喜んで!宜しくです!」
「宜しくお願いします。」
お互い負けないぐらいに腰を曲げ深々と頭を下げた。
「こいつはいつもよーく可愛がってやってるからな。困った時には必ず力になってくれるよ。」
「頼りにしてます。」
瀬奈の美貌にドキドキの淳史はますます2人の関係が気になってしまう。今まで女の話題など出たためしがない。海斗と女とはどうしても結びつかないワードであった。しかもとびっきりの美人だ。事情を知りたい淳史だが聞くに聞けない。
「ま、事情はおいおい話すよ。とにかく宜しくな?」
「はい!」
敬礼する淳史の肩をポンと叩き海斗達は立ち去って行った。少し離れた場所まで歩くと海斗は瀬奈に言った。
「あいつは話せる警官だから安心しなよ。形式的な事は二の次にして親身になって相談に乗ってくれる奴だ。ま、殆ど友達みたいな感覚だ。あいつ、俺と一緒に良く風俗に行ってたんだよ。警官のくせにね!ハハハ!」
「そ、そうなんだ…。」
実際に良くつるんで遊んでいる。釣りにも行くし風俗にも行く。海斗も警察は嫌いだが淳史は信頼している。気の許せる数少ない人間のうちの一人なのであった。
それから寄り道をし、手土産を買いながら祖父母宅へと向かった。