植物園にて-4
ある程度案内したヴェルメは、家の鍵とお金と買い物リストをリョウツゥに渡し、仕事に行ってしまう。
ただ世話になるのは嫌だ、と伝えると家事を頼まれたのだ。
もう1度ゆっくりと植物園を回ったリョウツゥは、正面玄関前の階段に座った。
(……凄い……)
知らないものばかりだった……もっと知りたいと思った。
(バインさん。私、ここで頑張ってみようと思います)
リョウツゥはポケットから綺麗な石を取り出し、陽の光を当てた。
キラキラ光る石は角度によって色が変わる。
その光がいつもより強く感じたリョウツゥは、目を細めて微笑んだ。
……その時
どんっ
「ぇ」
「うわっ!?」
いきなり背中に何かが当たり、指で挟み持っていた石が落ちる。
「あっ!!」
石は緩い放物線を描き、階段の1番下へ飛び……。
パキ
澄んだ音を立てて3つに割れた。
その光景をスローモーションで見たリョウツゥは、呆然と割れた石を見つめる。
「ワリィワリィ」
ぶつかってきた人物が謝ってきたが、リョウツゥの耳には入らなかった。
「あれ?お前、この間のコインの女か?」
その台詞でリョウツゥはやっと首を動かす。
大きな荷物を持った人物は、始まりの泉の前で会った不審人物だった。
「……ジル…さん」
「おう。また会ったな」
何故だろう?クアトリアはこんなに広いのに、何故この人ばかりが自分の邪魔をしたり、大切なものを壊すのだろう?
リョウツゥは呆然としたまま視線を石に戻した。
何かもう、欠片を拾う気力さえ無かった。
「?」
反応が鈍いリョウツゥの視線を追ったジルは、視線の先にある光るものを見つける。
「……お前のか?」
ジルの言葉にリョウツゥは力無く頷いた。
それを見たジルは荷物を置いて石を取りに行く。
3つに割れた石を拾ったジルは、それをリョウツゥに差し出した。
「ん」
「……」
無言で石を受け取ったリョウツゥの目から涙がポロリと零れ、ジルはぎょっとして慌てた。
「な、泣くなよ」
そんな事言われても止まらない。
リョウツゥの涙は手の平に乗せた石を濡らしていった。