投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

〜花蘇芳〜
【その他 官能小説】

〜花蘇芳〜の最初へ 〜花蘇芳〜 5 〜花蘇芳〜 7 〜花蘇芳〜の最後へ

〜花蘇芳〜-6

「社長室の池永です。社長より十分後においでいただきたいとのことですが、ご都合はいかがでしょうか」
「わかりました。すぐうかがうと伝えてください」

社長室のある最上階エレベーター口で、声の主は待っていてくれた。
直接の面識はないが社内でも評判の才媛だった。

私は少しでも余分な緊張をやわらげようと話しかけていた。

「用件はなにか聞いていますか」
「おいでいただいてからお話するとのことです」

木で鼻をくくるような返答に私は気後れした。部下にはいないタイプの人種だった。
来意を告げると中から返事があった。彼女に招き入れられ、私は部屋に入った。

兄が執務机についたまま、顔を上げた。
目で来客用のソファを促すと、出て行こうとした秘書を引きとめる。

「飲み物はいいから、しばらく誰も近づかないよう言ってくれ」

私の背後で彼女が頭を下げた。

ドアが閉まると兄が膝を進めてきた。
目の前に一枚のファイルが差し出される。
そこには若い女性の顔写真と簡単なプロフィールが書かれていた。

「兄貴、これは?」
「親父の相手だ。なかなかのもんだろ」

兄は二人きりになった途端、表情を和らげた。目には悪戯っぽい光さえある。
私はそんな彼のテンションについていけず、とまどった。

「一度会って来てほしいんだ。まあ面接みたいなものだな」
「会うって……俺がか……」

私はあからさまに迷惑そうな顔をしたらしい。兄は取り入るようにたたみかけてきた。

「頼むよ。他に任せられないだろ」
「けど……」

結局は無駄な抵抗だった。なだめすかされ嫌々ながら大任を仰せつかることになった。
兄は安心したのか軽口をたたいた。

「彼女、亡くなった白石常務の血縁でな……」
「白石って……ああ、あの」
「先方から是非にという話だ」

何が愉快なのか、兄はしきりに笑った。

「親父の前に一度試して構わんぞ。役得だ、役得」
「よしてくれよ」

写真の女が艶然と微笑んでいた。


〜花蘇芳〜の最初へ 〜花蘇芳〜 5 〜花蘇芳〜 7 〜花蘇芳〜の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前