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ありがちな二人の、ありがちな日々
【女性向け 官能小説】

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そして、もう一度-1


居心地の良い窮屈なソファーに妙な広さを感じて、湊は目を覚ました。
ソファーに居るべきはずの新太が居ない。代わりに寄り添うように腕の中にはスケッチブックが納められていた。

じわりと胸に滲む不安、予感を押し込めて、ソファーに居ないのなら…、そう思いベランダに視線を向ける為に、陽光に照らされた白いレースのカーテンを纏うサッシ窓を見つめた。しかし、そこにも新太の姿は無かった。

「新太…?」
スケッチブックをソファーに置き去りにして、湊は部屋の中を探して歩く。
浴室、トイレ。収納部屋に、寝室。最後に玄関へとたどり着き、無くなっている新太の黒いスニーカーに気付くと、

「…あぁ、そうか…。きっと散歩…」
言いかけて息苦しさを堪えよう、シャツの胸元をつかんで俯いた。
そんな事はあるはずないとわかっていた。新太はここにきてから今まで一人で外へ出た事がないからだ。

「…また、置いてかれちゃった…」

悲しいのに涙が出ない。代わりに小さな笑みが浮かんだ。
いつかはこうなると心のどこかではわかっていた事だ。それがたまたま今日だっただけ。

俯いたまま、湊はリビングへと歩いてソファーにへたりこむように身を預けた。その振動で、パキラの葉が震えるように小さく揺れる様を感じながら、旁のスケッチブックを手に取り、胸に抱き締めた。

「嘘つき…」

喉の奥から込み上げた言葉を吐き出すと、体の底から震えが立ち上ぼり、スケッチブックを抱き締めた両腕に嫌な力がこもった。

「どうして…? どうして何も言わずに居なくなっちゃうのよ…。大丈夫だって言ったじゃない…」

両手をあげて、湊はスケッチブックを床に投げつけよう姿勢をとったがしかし、新太が湊に残した唯一のもの。手から大事なそれを投げ放つことは出来なかった。

深く息を吐き、スケッチブックをそっと開くと、湊は大きく目を見開いた。

「いつの間に…こんなに…」

呟いたら、視界がみるみるぼやけて、スケッチブックが瞬く間に霞んだ。
か細く震える指でゆっくりとページをめくり、

「私が書く姿を、ずっと…見つめていてくれたんだね…」

そこに描かれた様々な表情の自分を見て、新太の視界を、景色を知り、気持ちに触れる事が出来た。

「新太…」

最後の一枚を見て、湊は愛しげに名前を呟いた。
そこには、

『必ず戻ります。それまでパキラにお水をよろしく』

新太からの手書きのメッセージがあった。

「うん。待ってるよ…ずっと…」

湊は、泣きながら小さく笑んで、スケッチブックをそっと抱き締めた。






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