〜 校庭 〜-1
〜 校庭 〜
キーン、コーン、カーン、コーン。
給食が終わるチャイムがなって、教官と私は眼があってしまった。
「22番。 終わりの挨拶をしなさい」
「ハイ! インチツの奥で理解します!」
最初の挨拶に続き、終わりも私に任せるという。 私は適当に言葉を紡ぎ、
「ごちそうさマンコ!」
「「ごちそうさマンコ!!」
咄嗟に思いついた、一番バカっぽい挨拶を叫んだ。 皆が私に続いて叫んだが、誰も笑っていないことが哀しい。 恥知らずな言葉を紡いだとして、それが当たり前になっているなら、私たちは知らないうちに自分で自分を穢しているのだ。 抵抗しないことが美徳ではない。 だのに、誰も抵抗する旗を掲げていない。 私自身、率先して貶めている。
「これまで。 各自食器を戻しなさい」
あっという間に給食の時間は終わり。 当たり前の『お昼休み』であれば、寛いだり、用を足す時間も含んでいるのに、この学園では休み時間も排泄する間もないらしい。
食事をすべて平らげたものは、35人中25人。 もちろん私もその中の一人だ。
一方、鼻で音をたてすぎて教官から追加のスープを大量にいれられたり、顎がつかれてストローがスープに届かなかったりで、6人の生徒はボウルに白いスープを残してしまった。
鼻からチューブを抜き、教官に中身を確認してもらってから、トレイに食器を戻す私たち。 けれども、ほんの少しでも残した生徒は食器を返すことを認められなかった。 そのまま食器をもって席に戻らされる。 その上で教官は上下の穴――口と肛門――を拘束した。 口に穴がないボールギャグを噛ませ、肛門に今朝のアナルストッパー(ただしチューブはない)を嵌め、机に登ってマスターベーションしろという指示だ。 マスターベーションでは、午前同様、いつでも絶頂に達する状況を保ちながら、許可があるまで達してはいけないとのこと。
「貴方たちは体力テストを受ける以前の問題です。 食事に敬意を払えないのは、つまり一滴の有難みが分かっていない。 試しに自分の体液でボウルを満たして御覧なさい。 体液といっても、まさか尿で食器を汚すような粗相は許しませんよ」
つまり、マスターベーションで膣やクリトリスをいじり、愛液を食器に貯めろというわけだ。 例え猶予が一日与えられたとして、私には達成できそうもない。 いくら敏感な性質であっても土台無茶な注文に、残してしまった7人は絶句している。
私は彼女たちに同情しない。 こうなることが、つまり事態が悪化することが分かっているから、私たちは無理をして胃の中に収めたのだ。 そうしなかった以上、こうなることは必然だ。
私たち25名は、全裸に首輪をつけた装いなわけだが、外靴を履いてグランドに集合するよう命じられた。 当然、全裸のまま外にいけということだ。 机の横にかかっている袋には、屋外用のテープ式ズック靴が入っていて、それぞれの番号が刺繍してあった。
「下足棟の前で整列すること。 最初の一週間は担任指導と決まっているのだけれど、特別に『8号教官』に体操指導をお願いしています。 ゆめ失礼のないように。 私はここからお前たちを見ています。 いいですね」
「「ハイ! インチツの奥で理解します!」」
いつの間にか全員『インチツ』のイントネーションまで揃っている。
私は『22番』と書いた靴を手に下足棟へと急ぐ。 もしかしたら『外出する作法』のようなものがあるかもしれないのだが、何も知らない以上、誰よりも早く行動することが誠意だと思う。 もしも誰かが真っ先に叱られるなら、それが私であっても構わない。 寧ろ私である方が気が楽だ。
外は梅雨特有の、ジメジメした大気がただよっている。 私の後ろには、駆け足でみんながついてくる。 そんなこんなで、私たちにとって初めての屋外指導がはじまった。
……。
下足棟といっても下足箱があるわけでもなく、単に屋外へ繋がる開き戸があるだけの空間。
それでも、すべての扉が原則として通行に許可が必要な学園にあって、解放された扉というだけでも珍しい。
素足から外履きに履き替え、駆け足で棟から出た私たち。 2号教官がさきほど告げた屋外で私たちを指導する『8号教官』は、下足棟から少し離れた樫の木陰で、幹にもたれてこちらに手を振っていた。 上下ともピッチリしたスウェットで、胸に大きく『G』の字があったのですぐ分かった。
タッタッタッ。
全力疾走で教官のもとへ。 並び方は、兎に角早くついたものから順に並ぶ以外思いつかない。
最初に着いた私が教官の正面に陣取り、次に来たものから隣へくるよう目配せした。 幸い私の次にきた9番は察してくれたらしく、スッと右隣で『きをつけ』の姿勢をとってくれた。 あとは芋蔓式とやらで、順次教官の前に整列できた。
「うふふ。 緊張しちゃってるねえ、もう。 みんな揃って初々しいな〜」
後続がなくなったところで、教官がおもむろに木陰をでた。
意外なことに、教官なのだから冷静で無表情と思いきや、口許に笑みを浮かべていた。