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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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34章-1





「結婚してほしい――」



 確固たる意思を含んだその声が、目の前で自分の頬に手を寄せている鏡哉から発せられる。

 その言葉の持つ意味を直ぐには把握できなくて、美冬は強すぎるほど自分を見つめてくる鏡哉の視線をただ受け続けていた。

 お互い身じろぎもせず見つめ合っていたが、徐々に美冬の心の内を表すように瞳が彷徨い出す。

 美冬から手を放した鏡哉は、それでもじっと彼女を見守っていた。

(……けっこん?)

 ようやく鏡哉が口にした言葉が脳に届く。

(……鏡哉さんと、私が……?)

「……………………………え?」

 戸惑いのまま口を開けば、あまりにも場違いな声が漏れる。

「私は、美冬を今でも愛している……これからもずっと愛している」

 鏡哉は一言一言を噛み締めるように言葉にする。

「だから、ずっと一緒にいたいんだ」

「………」

(愛している? 私を? ……今でも――?)

 あまりの驚きに、涙も引っ込んだ。

 鏡哉が今も自分を愛している――将来を誓うほど。

 美冬の混乱した頭の中で、その言葉だけが形を成す。

「…………………………………うそ」

 とっさに思った言葉が美冬の赤い唇から零れ落ちる。

「嘘じゃない。愛している、美冬」

 すぐに鏡哉が美冬の言葉を否定する。

(あ、れ……ちょっと、待って――)

 美冬はこんがらがった思考を必死に整理する。

(私は三年半前……自分は鏡哉さんを愛しているし、鏡哉さんも自分を愛してくれていると思って……お互いのためを思って離れた)  

 それは紛れもない真実。

(そして、私は信じていた……鏡哉さんのことを。何年離れていても、信じられると思っていた……)

 そこで美冬の思考ははたと止まる。

(な、何を信じてたんだろう――?)

 『信じてる』――その言葉は美冬にとって今や、過去と今の自分を縛り付ける呪文になっていた。

 美冬の細い指先が震え始める。

(……いつまでも自分だけを愛してくれる筈……きっと愛している自分を、迎えに来てくれる筈――)

 美冬の白い頬がみるみるうちに赤く染め上げられる。

(私……どれだけ大それたことを鏡哉さんに期待し、信じていたんだろう――)

 まだ高校生という若さだから、純粋に信じることが出来ていたのかもしれない。

 二十を超えた今、自分の無鉄砲さがやっと分かる。

(自分を迎えに来てくれて――? その後の事なんて、まったく考えていなかった……ただ会いたくて、ずっと傍にいたくて、それだけで――)

「………っ!」

 美冬は熱いほど火照った頬に震える掌を添える。

「美冬?」

 自分の前でみるみる赤くなっていく美冬に、鏡哉が心配そうに声をかけてくる。

「……あ、会いたかった」

 視線を鏡哉から外して、震える声で美冬は口を開く。

「うん」

「あ、会えたら……ずっと傍に、いたかった――」

「ああ、私もだよ」

 鏡哉が口元を緩めて微笑む。

「で、でも――」

「でも、それより先のことは考えてなかった?」

 美冬の心を見透かしたように鏡哉が続ける。

「………っ!」

 言い当てられて、美冬は言葉を詰まらせる。

 鏡哉の形の良い唇からくすりと笑いがこぼれる。

「美冬らしいな……全然私に何かを求めない」

 そんな事はないのに、自分は鏡哉に迎えに来てほしいと求めていたのに、鏡哉はそう言う。

「でも私は君が17歳の頃から、結婚しようと思っていたよ」

「え!?」

 そんな早くから鏡哉が自分を求めてくれていたことなど知る由もなかった美冬は、驚愕する。

「っと言っても、美冬が大学へ進学した位に、と考えていたんだけど」

「………!」

 鏡哉のその言葉に美冬はすっと現実に引き戻された。

「あ……わ、私には大学があるし……」

「うん。知ってる」

「が、学業と両立できないだろうし……」

「そんなことはない。昔も君は両立できていたし、私も協力する」

「そ、そう! 私来年から休学するんです。学費貯めなきゃいけないから、バイトで鏡哉さんの傍にいられないし……」

「休学なんて、させる訳ないだろう?」

 今まで優しい声で美冬に答えてきた鏡哉の厳しい声に、美冬は息をのむ。

「え?」

「私と結婚しようがしまいが、君が弁護士になるまでの諸費用は全て私が面倒をみる」

 きっぱりとそう言い切った鏡哉に、美冬は驚嘆する。

「な、なんでっ?」

「なんでじゃない。私がそうしたいからそうするんだ」

 傍若無人なその物言いに、美冬は混乱する。

「ええっ! そ、そんな……」



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