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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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34章-2


「っと言っても美冬は簡単に受け取ってくれないだろうから、取り敢えず4回生までの学費はもう前納しておいた」

(………………はあっ!?)

 ありえない行動をとった鏡哉に、美冬は驚きを通り越して呆れた。

「君が悪いんだ。親父からの援助を断ったりするから」

「………っ」

 責めるように昔の事を言われて、美冬はぐっとつまる。

 あの時はまるで金で鏡哉と別れろと言われているみたいで、そんな援助を受けるなんて自分を許せなかったのだ。

 黙り込んだ美冬の頭を鏡哉が撫でる。

「ごめん。でも少し嬉しかった自分もいる……こんな事を言うとベタと思われるだろうけれど、『美冬は私という個人を愛してくれている』、そう感じて、嬉しかった」

 美冬は全く知りもしないだろうが、鏡哉は今まで数えきれないほどの女性達からその家柄や経済力目当てで言い寄られていたのだ。

「……そんなの、当たり前、です」

 美冬は少し頬を膨らませて抗議する。

「美冬だけだよ……まあ学費のことは少し置いておいて。美冬は私と一緒にいたいんだよね?」

 いきなり話題を変えられて戸惑ったが、美冬は恥ずかしそうにこくりと頷く。

「じゃあ、私と結婚すればすべてが解決する」

 極論をぶった鏡哉に、美冬は何から突っ込むべきかと眩暈がする。

「わ、私は……鏡哉さんに、自分が相応しいと思いません」

「どういうこと?」

「い、家柄とか……」

「親父の相手、つまり母親も一般家庭出身だ」

「―――っ! で、でも鏡哉さんのお父様はきっと、私の事――」

(私の事、嫌っている筈……子供のくせに息子を誑かしたと――)

「美冬が学費援助を断った事を知らせてくれたのは親父だよ」

 鏡哉から知らされた驚きの事実に、美冬は戸惑う。

(え……でも――)

「第一親父が何と言おうと、私は美冬が結婚してくれるなら絶対するし、君を一生守る」
「―――!」

 君を一生守る――その言葉が美冬の心を打ち、跳ね上がった鼓動がどくどくと加速していく。

「わ、私……チビだし美人でもないしっ!」

「とてつもなく可愛いよ」

「―――っ!? と、年だって9歳も離れてるし!」

「20歳と29歳って、別におかしいと思わないよ誰も」

「こ、こんな早くに結婚だなんて!」

「今が嫌なら取り敢えず婚約して、美冬がいいと思える年齢で結婚しよう」

「こ、婚約っ!?」

 すっ飛んだ声を発した美冬に、鏡哉は優しく微笑む。

「婚約して一緒に過ごして……それでも美冬が『違う』と思ったら、婚約解消するから」

 そう言って美冬の頭から手をのけた鏡哉の顔は少し淋しそうだった。

(ちがう、こんな顔をさせたい訳じゃないのに! で、でも……私なんか――)

 眉根を寄せて美冬は困り果て、無意識のうちに心の声を呟いていた。 

「私なんか――」

「美冬!」  

 言いかけた美冬を鏡哉が厳しい口調で遮る。

「金輪際、私なんかなんて言うな。私が愛している美冬のことを自分自身で貶(おとし)めるな」

 鏡哉のその叱責に、美冬は体を強張らせる。

 しかし自分が怒られた理由をすぐに感じ取った美冬の頬は徐々に緩み、言いようのない幸福感で満たされる。

(鏡哉さんは私のことを思って怒ってくれているんだ……)

 くすり。

 目の前の鏡哉から笑みが零れる。

 不思議に思って彼を見ると、鏡哉は懐かしそうに眼鏡の奥の瞳を細めた。

「いや、変わらないなと思って……初めて会った日、言ってただろう? 『周りの人に怒られたり注意されたりすると、嬉しくなって惚けちゃうんです』って」

「………」

 まさかそんな取るに足らない言葉を覚えてくれていたとは思わなかった美冬は、大きな瞳を見張る。

「鏡哉さん……」

「愛してるよ、美冬」

 鏡哉が美冬の頬をさする様に撫でる。  

 その端正な顔は溶ける様に幸せそうで――。

「愛してる」

 その瞳は美冬を慈しむ愛に満ち溢れていて――。

「………」

(ずっと、こんな表情を見ていたい。

 ずっと、その瞳で見つめてほしい。

 ずっと――)

「美冬……」

 暖かい鏡哉の体温が手のひらを通して伝わってくる。

(信じよう、この温もりを。

 信じよう、彼の言葉を。

 信じよう――)




 自分の心を――。





「愛しています……鏡哉さん――」

 美冬の小さな唇が震えながら愛の言葉を紡(つむ)ぐ。

 頬に添えられた鏡哉の掌がピクリと震える。

「私も、愛している……」  

 美冬が小さく頷く。

 長い黒髪がさらりと揺れる。

「私と、結婚してくれるね――?」



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