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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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33章-1


 昨日とは違う快晴の天気の中、美冬はけだるい体に鞭を打ちながらアパートへと戻った。

 シャワーを浴びて服を着替えると、午後の講義に間に合うよう急いで大学へと向かう。

 何度も睡魔に襲われながら、それでも何とか授業を乗り切りアパートの近くの居酒屋へと歩を進める。

 思考はどうしても昨夜のことに及ぶ。

『昨日は素敵だったよ、美冬』

 今朝鏡哉に言われたことを思い出し、顔が火照ってくる。

 最後のほうはうっすらとしか記憶がないが、思い出すのも恥ずかしいほど乱れた覚えはある。

「………」

(鏡哉さんに求められた時、断れなかった――)

 部屋に入った途端抱きしめられ、彼の昂ぶりを押し付けられたとき眩暈がした。

 頭では「付き合っている訳でもないのにこんなことをしてはいけない、鏡哉さんがどういうつもりで求めてくるのか分からないのに」と警鐘が鳴っていたのに、気が付いた時には身体が彼を求めていた。

 だから鏡哉を責めるつもりは毛頭ない。

 ただ気になるのは話の内容だった。

 鏡哉は一体何を話そうとしているのだろうか。

(やっぱり、関係を外に漏らさない契約――?)

 もしかしたら本当に離れる前に美冬の体が惜しくなって抱いたのだとしたら、自分は傷つかない自信はない。

 今日は朝方まで居酒屋のバイト、明日は家庭教師のバイトがあり、明後日の夕方なら話す時間が取れると言ってしまった。

 辛い話ならさっさと明日の夜にしてもらったほうが良かっただろうかと思ったが、一度OKしてしまった手前もうどうしようもない。

 三年半も待ったのだから数日ぐらい我慢しなきゃと自分に言い訳をし、美冬はバイト先の入り口に入った。





 二日後。

 すっかり日が落ちた校門へと近づくと、すぐに視界に長身の鏡哉の姿が入った。

 それだけでどくりと鼓動が跳ねる。

 頭よりも素直な体に美冬は内心苦笑した。 

 こちらに気付いた鏡哉は少し硬い笑みを浮かべていた。 

「また会えてよかった……」

 美冬が約束を破ると思っていたのだろうか、鏡哉は第一声そう呟いた。

「……寒い中お待たせして、すみません」

 他人行儀な返事を返した美冬に鏡哉は「いや」と返すと、助手席に美冬を乗せ車を発進させた。

「今日もマンションでいいかな?」

 車を走らせて数分した頃、鏡哉がそう訊ねてきた。

「え……」

 先日のことを思い出し、美冬は思わず強張った反応をしてしまう。

(また、するの――?)

 とっさに自分は世に言う『都合のいい女』と思われているのではという疑念に駆られる。

 そう思った途端、言いようのない悲しさと、それでも鏡哉を恋慕する自分を感じ美冬は言葉を失う。

(私は……きっとこの人に何をされても拒めない――)

 それを悟った時、絶望にも似た感情が心を支配した。

 美冬の反応で読み取ったのだろう、鏡哉が少し慌てた様に返してくる。

「もう、抱いたりしないから」

 鏡哉の返事にホッとした自分と紛れもなく失望した自分がいて、美冬はもう自分が分からなくなった。

 その後無言で時間を過ごした二人を乗せた車はマンションへと着いた。

 ソファーへ座るように促され座って待っていると、鏡哉が紅茶とコーヒーを持って現れた。

「美冬はストレートティーが好きだったよね」

 そう言って目の前に出された紅茶を見て、美冬の心が小さな喜びの声を上げる。

(覚えてて、くれるんだ……)

 少しはにかんで「ありがとうございます」と言うと、鏡哉は嬉しそうに笑った。

「やっと美冬の笑った顔が見れた」

「………」

 まさかそんなことを言われるとは思わず、美冬の頬が少し染まった。

 そんな美冬を愛おしそうに見つめてきた鏡哉だったが、その直後には眉根を寄せて俯いた。

 そのまま微動だにしなくなった鏡哉に、美冬は困惑する。

(鏡哉さん……?)

 声をかけたいけれど、かけてはいけないような雰囲気が二人を包んでいた。

 数分後、ようやく顔を上げた鏡哉は苦しそうな顔で謝った。

「ごめん、美冬……三年半前、君の本当の笑顔を奪ったのは私だ」   

「え……?」

 まさか謝られるとは思わず、美冬は困惑して鏡哉を見返す。

「私は、君を軟禁した」

「………」

 声を絞るようにそう言った鏡哉の言葉に、美冬は息を詰まらせる。

「愛していた……君を死ぬほど愛していた……君の目に入る私以外のもの全てに嫉妬し、君を自分以外の誰の目にも触れさせたくなかった!」

 鏡哉はその当時を思い出したように、感極まった声音でそう言い切る。

「最初は手首を縛り鍵を掛けて監禁し、そして……君の心をコントロールした」



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