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籠鳥 〜溺愛〜
【女性向け 官能小説】

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32章-1


 泥のように深い眠りから鏡哉を覚醒へと 誘(いざな)ったのは朝日だった。

 重い瞼をこじ開けて気怠そうに身じろぎすると、視界の中に艶やかな黒髪が目に入る。

 ベッドサイドの眼鏡をとってかけると自分の胸に縋り付くように眠っている美冬が目に入り、鏡哉は一瞬これは夢の続きだろうかと思った。

 長い間恋い焦がれた美冬が一糸まとわぬ姿で自分の横で 微睡(まどろ)んでいる、その幸福に鏡哉の胸が喜びで震えた。

 起こさないように黒髪を撫でる。

 しっとりとしながらもさらさらと掌から零れ落ちるそれを梳いていると、死んだように眠っていた美冬の瞼がピクリと震える。

 起こしては可哀そうだと思うものの、一瞬でも早くその黒い瞳で自分を見つめて欲しいという欲求のほうが勝る。

 ゆっくり瞼が開かれていく小さな顔を覗き込むと、それは徐々に限界まで見開かれる。

「――っ!?」

 絶句した美冬に「おはよう」と笑いかけると、瞼が何度も瞬きをする。

「わ、私……」

 混乱しているようにどもる美冬の瞼にかかった前髪をさらりと撫でると、鏡哉は口を開く。

「昨日は素敵だったよ、美冬」

 昨夜の美冬を思い出しそううっとりと呟くと、みるみる美冬の頬が赤く染まった。

 羽毛布団を掴んで目の下まで引き上げた美冬が可愛くて、鏡哉の口から笑みが零れる。

(虐め過ぎたかな……)

 頭の中で少し反省して壁の時計を見上げると、そろそろ出勤の準備をする時間だった。

 離れるのはとても名残惜しいが、朝いちから抜けられない会議が入っていた。

 布団の隙間からこちらを見上げてくる美冬の頭を撫でると、鏡哉は体を起こしてベッドから降りる。

 近くの椅子に掛けておいたバスローブを着込むと美冬を振り返った。

「美冬、講義は何時から?」

「……き、今日は午後だけ、です」

「じゃあ、ぎりぎりまでここで休んでいくといい。残念なことに私はもう出社しなければならないから」

「え……いえ、私も帰ります」

 ベッドの中からもう帰ると主張する美冬に、鏡哉は苦笑する。

「たぶん足腰立たないでしょ。ひどく抱いたから」

「―――っ」

 また絶句した美冬だったが、鏡哉の表情が急に真剣なものになった事に気づき不安そうに見つめ返してきた。

「美冬……昨日は話せなかったから、今晩もう一度会いたいんだけど……」

「……今日は、夕方から明け方までバイトで……」

 申し訳なさそうにそう言う美冬にいつなら都合がつきそうかと問えば、明後日の夕方からならばと返事が返ってきた。

「じゃあそうしよう。18時半に大学に迎えに行くけれど、それで大丈夫?」

「はい……」

 美冬と再度会う約束を取り付けた鏡哉は心底ほっとし、もう一度美冬の頭を撫でると出勤の支度をするため部屋に備え付けのバスルームへと消えた。

 シャワーを浴び寝室へと戻ると、やはり足腰が立たずに疲労がピークに達していたのだろう、美冬はすやすやと寝息を立てて寝ていた。

 スーツとコートを着込んで準備を済ますと起こさないように美冬の額にキスを落とし、鏡哉はマンションから出た。

 12月の乾燥した冷気が纏わりついたのも束の間、リムジンに乗り込むとすぐに暖かさに包まれる。

 そしていつもなら助手席に乗る高柳が、何故か今日に限っては鏡哉に続いて後部座席に乗ってきた。

 たまに仕事の話をするときに後ろに乗るので特に気にせず車を出させる。

「おはようございます、社長」

「ああ」

 挨拶をした後数分しても仕事の話をしてこない高柳を見やると、にこりと笑いかけてきた。

「なんだ?」

 男に笑いかけられても……と少々気持ち悪く思いながら高柳に問う。

「いえ。これでインド行きも中国行きも無しになったなと思いまして」

「………」

 一瞬何のことを言われたのか分からなかった鏡哉だが、取締役に言われた次の転勤先候補のことだと気づき口をつぐむ。

「おや……美冬ちゃんに会えたのでしょう?」

「お前……」

 昨日美冬に会いに行くことを高柳に言った覚えは勿論ない。

 だから今日は珍しく迎えの車に乗っているのかと納得した鏡哉は、自分に発信器でも取り付けられているのではと少しだけ疑った。

「おめでとうございます。ふ……婚約も時間の問題ですかね」

 嬉しそうにそう言った高柳から視線を外した鏡哉は、窓の外へと視線を移し沈黙する。

「……さあ、どうだろうな」

 数十秒後ようやく口を開いた鏡哉に、高柳が不思議そうに首を傾げる。

「昨夜話し合えたのでしょう?」

「………」

「……なにやってるんですか」



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