無自覚の若い自覚-2
翌週末、ジーンズに半袖のワイシャツという出で立ちでアーニャとサーシャは男湯に現れた。脱衣場でも声を出さないようにして、淡々と服を脱いでいった。男のように短く髪を切り、更に男っぽくセットもしてきた二人は、幼い中学生と言えば通じる自信があった。目の辺りに少しだけメイクもしてみた。下半身は、前が見えないよう注意しながらタオルで隠して脱いだ。二人とも、男の裸を見るのは初めてだったから、老人が多いとは言え、その違和感にひどく緊張した。
入ってアーニャが、人のたくさん腰掛けている場所にわざわざ腰を下ろしたので、サーシャは驚いたが、その位やらなければ来た意味がないと思い直し、近くにやはり腰掛けた。隣はしかし座れなくて、背中合わせになった。
体を洗い、頭も洗った。髪の形は崩れたけれども、なんとか撫でつけておいた。人の裸を気にする者は案外いないらしく、次第に二人は落ち着いてきた。そして、ちょうど誰もいない露天風呂に向かっていった。日差しの下に出たのと、二人だけになった解放感とに、サーシャとアーニャは顔を見合わせて笑い出した。タオルを首に掛けると湯に浸かった。
「あれって、いろんな形があるのね。」
とサーシャが指で作って見せた。
「後ろから見ると袋が垂れてて、引っ張ったら取れそうだし。」
アーニャもタオルを湯で膨らませ、剽軽にそれを真似てみた。二人は寄り合い、くすくす笑いながら、観察した男の話を始めた。だが、そのくすくす笑いに、音もなく入ってきた人の気配を覚りそびれたのだった。
「何やってんだ、お前ら。」
背後から聞こえた声に、きゃっと女の子そのものの反応をして二人が振り返ると、同じクラスの磐田元気( いわたもとき )が立っていた。磐田は確信があったわけではなかったようで、二人を認めると目を丸くして固まった。アーニャがさっと立ち上がった。そしてさっき話していた内容よろしく、磐田の股間を摑んで引っ張った。湯に引きずり込まれた磐田から手は離さず、アーニャは左右色違いの瞳を見開いて
「でかい声ださないの!」
と、必死の形相で囁いた。磐田は堪らず隣のサーシャにしがみついてきた。
「ばか、騒いでると人がくるじゃない。」
と出来るだけ声を抑えたサーシャも、磐田を抑えようとして咄嗟にアーニャの手の横から握り締めた。芝居の女形のように華奢な磐田には似つかわしからぬ大きさだった。アーニャは緊張のあまり手がつってしまったらしい。離そうとすればするほど、細い指の全力でますます固く締めていった。計らずも生じたこの状況に、過剰な反応を二人の高校生は見せていた。アーニャはのぼせ上がって真っ赤になり、サーシャは怯えて青ざめた。磐田はうずくまって泣いていた。
「もう出よう。」
とサーシャが言った。言うとアーニャの手から中身を力ずくで、部分ごとに引き抜いた。白い汁が先から漏れて浮いていた。二人は、ぐったりした磐田を置いて、そそくさと戻っていった。
入る時は楽しかったが、帰りは気まずい雰囲気になった。うち、もう学校行けないとアーニャは落ち込んでいた。露天風呂で思いきり漏らしちゃったよとも言った。サーシャは慰めるより
「あんた、女みたいなヒステリーがあるんじゃない?」
と友人をたしなめた。