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THE 変人
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病名-8

 海斗が出て行くと勝弘はすぐに医者の顔つきになる。そして瀬奈の顔を見るとすぐに手首をそっと握り確認する。
 「リストカットか…。」
リストカットの事は言ってもいないし傷痕を見せもしなかった。しかし勝弘がすぐに手首を確めた事に瀬奈はドキッとした。
 「先生、どうして分かったんですか?」
 「ん?あ、ああ…、精神的に病を抱えてる人達が行き着くところは自虐、特にリストカットに至る傾向が強いからね。リストカットの痕があるないで病気の軽い重いが分かるんだ。君の場合は重いね。これからいくつか君に質問をする。正直に、そして直感で答えて欲しい。いい?嘘をついても君の為にはならないからね。必ず正直に答えるんだぞ?」
 「はい。」
 「君にとって辛い事を思い出す事になる。でもそれは君を責める為ではなく、君の抱える闇を見つける為にするんだ。気持ちを強く持ち、そして私を信じてくれ。私は君を救いたいと思っているという事を信じてくれよな?いいね?」
 「はい。」
瀬奈は一度大きく深呼吸した。ゆっくりと意気を吐くと瀬奈は勝弘の目を見据えて言った。
 「宜しくお願いします。」
と。
 勝弘の質問が始まる。瀬奈にとって思い出したくない辛い過去をいちいち穿られる。心が折れそうになる。感情が高ぶり体が震え涙も滲む。しかし自分を助けてくれるという勝弘の言葉を信じて嘘偽りのない事実を時間をかけながらも正確に答える。辛く悲しい気持ちでいっぱいになる瀬奈だが、質問を繰り返す勝弘の声が落ち着きを与えてくれる事に気付く。大病院の先生の言葉は冷たく義務的に瀬奈の胸に突き刺さった。しかし勝弘の声は穏やかで瀬奈の安らぎの波長と物凄くも合っているようだ。瀬奈はどんなに感情が高ぶっても取り乱さずにいられたのはそのおかげであった。
 勝弘が用意した質問に全て答え終えた瀬奈。
 「良く頑張ったな。瀬奈ちゃん、君の病は治る。大丈夫だ。」
そう言って頭を撫でた。
 「えっ…?」
今まで病院に行っても、どんなに努力しても治らず先生も周りの人間もお手上げ状態であった心の病をわずか10分ほど対話しただけで治ると言い切った勝弘を驚いた表情で見つめた。
 「本当は気付いているんじゃないか?海に身を投げて海斗君に出会ってからの自分の変化に。海斗君と一緒にいる事で君は希望を持てたんじゃないのか?」
 「…」
その通りであった。初めは投げやりであった。死んだはずの人生、もうどうでも良かった。この地で知り合ったどこの誰だか分からない男に体を好きにされようと思っていた。取り敢えず寝床さえ与えてくれれば好きにセックスさせようと。しかし海斗と触れ合う事により生きる希望を持ち始めた自分。そして海斗なら自分の病気を治してくれるのではないかという希望を持った。だからこうして病院にも来た。確かに勝弘の言う通りだ。そしてちゃんと自分を診てくれた勝弘にまた希望がより明るく見えたのであった。
 「海斗君、来なよ!」
勝弘は海斗を呼ぶ。
 「終わったの??」
 「ああ。まぁ座れよ。」
若干緊張気味に椅子に座る海斗に勝弘は所見を述べる。
 「はっきり言うぞ?病名は…」
海斗も瀬奈も固唾を飲んで勝弘の言葉を聞いた。
 「病名は…環境性人格障害だ。」
 「環境性人格障害…?」
聞き慣れない言葉に戸惑う海斗と瀬奈。
 「ああ。瀬奈ちゃんは旦那の浮気に悩みこの病気になった。よほど深く悩んだのだろう。例えば瀬奈ちゃんの隣にただの友達の海斗君がいる。2人は話している。そこに幸代ちゃんという女性が海斗君に話しかけてきたとする。随分と仲がいいようだ。そんな2人を見ているうちに自分と話していた海斗君を奪われたような気持ちになる。すると瀬奈ちゃんの中にある旦那さんの浮気に対しての苦悩が蘇ってくる。次第に海斗君が旦那に見えてきてしまう。幸代ちゃんは浮気相手だ。瀬奈ちゃんにとっては目の前で旦那が堂々と浮気相手と仲良くしている錯覚を起こしてしまう。するともう見境がつかなくなる。感情を抑えきれない。目の前の海斗君が憎くて仕方ない。自分に見せつけるかのように浮気相手とイチャイチャしてるように感じてしまう。それが海斗君じゃなくてもいかなる男に対して旦那と錯覚してしまう。それが 瀬奈ちゃんが暴れる原因だ。心の中に蠢いている憎悪が生み出す人格障害、まさにそれだ。」
 「…」
そこまでは海斗も瀬奈も何となく気付いていた。
 「ではどうしたら治るか…」
それが一番知りたい事であった。どんな苦難が待ち受けているのか、ある意味聞くのが怖かったりもした。


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