王様の秘密-1
クアトリアを統べる王は世襲ではなく国民投票で決まる。
現在の王様はカウル=レウムという名の40歳の若き王様。
全ての民の特徴を持ち、全ての民の性質が分かる過去に無い王様。
全ての民が快適に暮らせるように配慮された住民区に、どの民にも特徴を生かした仕事がある。
正に理想郷を形にしたような王都クアトリアだが、王様が謎だらけなのだ。
何故、全ての民の特徴を持っているのか?
誰もが持つ疑問だったし、始めこそ粗捜しする輩も居たが、巧みな政治手腕のおかげで時が立つにつれて皆、口を揃えて『別に良いじゃん』と深く考えなくなった。
そんな中、しつこく王に疑問を持ち続けているのは王都周辺を治めている領主達だ。
表向きは『得体の知れない人物に国を治めさせて良いのか?素性をはっきりさせた方が良いのではないか?』だが、実のところはカウル=レウム王の誠実すぎる統治のおかげで色々とやりにくくなっているからだ。
民に課せられる税金は領主が決めていたのに国で統一されてしまい、こっそり私腹を肥やせなくなったり、『民の性質上』という言い訳が出来なくなったり。
勿論、国民投票なのだから過去には風変わりな国王も居た。
元盗賊だった銀の民の『盗賊王』や、2対の翼を持って産まれた緑の民の『両翼王』。
しかし、ここ何代かは領主達にとって都合の良い国王を据え置いていたので、カウル=レウム王の政治が窮屈で堪らない。
「そこで、カウル=レウム王に不満を持つ領主達が密偵を派遣し、王の粗捜しをしているようです」
「へぇ、そうですか」
報告を聞いた王は、机に積み上がった書類に目を通しながら曖昧な言葉を返す。
その気の無い返事に報告をしていた秘書はピクリと肩を震わせた。
「分かっておいでですか?下手したら王の座を奪われるのですよ?!」
えらい剣幕で喚きたてた秘書に、カウル=レウム王はやっと顔を上げた。
柳眉を険しくしている秘書は青の民の青年。
水色の髪は軽く撫で付けてあり、髪の間から緑色のヒレが突き出している。
ヒレと同色の綺麗な緑色の瞳なのに、怒りが露になっていて少し勿体無いなあ、とカウル=レウム王は呑気に思った。
「今、全く関係無い事考えてますね?!私が言った事聞いてました?!」
終いには涙目になってしまった秘書に、カウル=レウム王は苦笑する。