予想と違う現実-4
「……何をしたのですか、ヴェルメさん?」
「何かをしたように見えるならお前の目は腐っているぞ」
後から来た人物と部屋を開けた主の、声と話の内容にリョウツゥは少し落ち着きを取り戻した。
(あれ?この声……)
つい最近耳にした声に、リョウツゥは翼の間からそちらをこっそり伺う。
「……ぁ……」
翼の間から見えた人物に、リョウツゥは小さく声をあげた。
「噴水で……会った人……?」
後から来た人物はリョウツゥの小さな声に気付き、ヒョイっと顔を覗かせる。
同時に人懐っこい笑顔を見せて1歩だけリョウツゥの方に来た。
「良かった。覚えていてくれたんですね?」
離れた位置でしゃがんで人懐っこい笑顔を見せる青年は、確かに始まりの泉で会った青の民だ。
「改めて自己紹介します。僕はキアノといいます。クアトリア植物園の園長をしています」
「あ、私、リョウツゥです。緑の地域から来ました」
お互い軽く頭を下げると視線をドアを開けた人物に向ける。
腕を組んで立っているその人は、掲示板の前でリョウツゥに声をかけてきた赤の民だった。
2人の視線に気付いた赤の民は、少し言いよどんでから無愛想な声を出す。
「……ヴェルメだ」
「ヴェルメさんは副園長さんです」
「はぁ……」
にこやかに話すキアノにリョウツゥはやっと緊張を解いた。
ガチガチだった翼から力が抜けたのを見たキアノが、今の状況を説明する。
「掲示板で何か探していたリョウツゥさんを見かねてヴェルメさんが声をかけたのですが、急に倒れてしまいまして……失礼ながら荷物を調べさせて頂いた所、こちらにはお知り合いが居ないようでしたので連れて参りました。勝手な事をしましてすみません」
深々と頭を下げるキアノにリョウツゥは慌てて首を横に振った。
「い、いえっ!こちらこそ、お手数かけてすみません」
リョウツゥの言葉にキアノは更に申し訳ないような顔になる。
「いえ。それが、倒れた原因が僕にあるようでして……」
「ぇ?」
「あの時、咄嗟に水をかけてしまって……」
「ぁ」
そういえば、始まりの泉にコインが入ったのが嬉しくて、濡れたままだった。