「兄嫁」-5
「あっ、降ります、降りますっ!」
慌ててホームに飛び出した途端、プシューッと音を立てて電車のドアが閉まった。気づかないうちにうたた寝
をしていたようだ。前の夜、悶々として一睡もできなかった雄二は、予備校の講義の最中も何度も居眠りをしてしまった。
(しっかりしなきゃ、こんな調子だと、来年も浪人だぞ…)
自分を戒めながら家に帰り着き、ドアを開けると、真季の電話する声が聞こえた。
「えっ…、遅いの…。うん…、仕方ないけど…」
不満そうな、そして、どこか甘えるような声だ。相手は浩一だろう。電話の内容からすると、今日は帰りが遅くなるというのだろう、そう推測はついたものの、真季に話しかけたくて、雄二は近寄って尋ねた。
「兄さんから?」
「うん、そうよ。」
「何だって?」
「仕事で遅くなるんだって…」
真季は少し寂しそうにそう言った。それは、雄二の心に兄に対する激しい嫉妬心を呼び起こした。思わず「僕がいるよ」と言いかけて、雄二は、危うくその言葉を飲み込んだ。
その夜、二人で食事をする間、真季は雄二のものだった。
真季は聞き上手だ。雄二の話を感心して聞いてくれ、時折、的確な質問で話を波に乗せてくれる。雄二の下手な冗談に応えて見せてくれるのは、とびっきりの笑顔だ。
「雄二君、第一志望はどこなの?」
「慶稲大学の政経学部。」
「浩一さんと同じなのね。私も慶稲大学よ。文学部だけど。」
「でも、偏差値がちょっと足りないんだ。先生はもっと自信を持て、そうすれば大丈夫だって言うんだけど…」
「そうよ。雄二君、実力はあるんだから、自信を持って勉強すれば、来年はきっと大丈夫よ。」
「うん、義姉さんにそう言ってもらうと、本当に合格しそうな気がするよ。」
「あら、気がするだけじゃなくて、本当に合格するのよ。」
真季にそう言ってもらえるだけで、雄二は志望校に合格できそうな気がした。
「ねぇ、ビール飲もうか?」
いたずらっぽく笑って、真季が言う。
「僕、未成年だよ。」
「でも、飲んでるんでしょ?」
「うん!」
そう言って笑い合いながら、真季は350ミリの缶を2つ持って来た。
アルコールが入ったせいで、会話もぐっとなめらかになってくる。そのうち、浩一の話になると、頬をほんのり染めた真季が、拗ねたような表情を見せてぼやいた。
「あの人ったら、私のことより、仕事の方が大切なんだから…」
そんな真季は、あどけない少女のように見える。そんな彼女が愛しくて、雄二は思わず言った。
「俺が兄さんなら、義姉さんを放っといたりしないけどな。」
「ふふっ…、雄二君って、優しいわね。」
そう言って見つめられると、雄二の心臓はドキドキ音を立てる。
その時、風呂場からお湯が張れた合図のメロディが聞こえた。
「雄二君、お風呂、入ったら?」
「僕、後で入るよ。風呂に入ると眠くなって、勉強できないんだ。」
「じゃあ、私、先に入ってくるね。」
そう言って真季が立ち上がる。
やがて、浴室のドアが閉まり、シャワーを流す音が聞こえた。
(いけない…、いけない…)
そう思いながらも、雄二は足音を忍ばせて、脱衣室のドアを開けた。磨りガラスに、立ってシャワーを浴びる真季の姿が映っている。
豊かな胸とお尻、キュッと締まった腰のくびれ、スラリと伸びた両足。その中心に黒い陰りが見える。雄二は、思わず股間が熱くなってくるのを感じた。