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「兄嫁」
【若奥さん 官能小説】

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「兄嫁」-1

「ただいま。」
 雄二が予備校から帰ってくると、玄関に見慣れない靴が二足並んでいた。黒い紳士物の革靴とネイビーブルーのおしゃれな婦人靴だ。
(誰か来てるのかな?)
 そう思いながらリビングに入ってみると、兄の浩一が来ていた。
「おう、雄二、元気にしてるか!」
 浩一は雄二に向かって、いつも変わらない陽気な口調で声をかけてきた。 
 5歳年上の兄は子供の頃から優秀で、浪人中の雄二と違って名門大学にストレートで合格した。卒業後は一流企業に入り、若手の有望株として期待され、今も重要なプロジェクトを任されている。雄二はそんな出来の良い兄と、何かと言えば比較されてきたのだが、しかし、そのことで僻んだことは一度もなかった。兄とは仲が良かったし、そもそも、兄が自分の競争相手だなどと考えたことがなかったからだ。浩一は、雄二にとっても「自慢の兄」であった。
「こんばんは。」
 浩一の隣でニッコリ微笑んだのは、兄嫁の真季である。一瞬、返事をするのも忘れて、雄二はみとれてしまった。真季と会ったのは、結婚式の時以来だが、上品なワンピースを着た彼女は、花嫁姿の時に勝るとも劣らない美しさだ。
「…こんばんは…」
 目を伏せてドギマギしながら、雄二が真季にあいさつを返す。なんとなくそわそわして落ち着かない。
「まったく、まいったよ…」
 そう言って、浩一が実家に帰って来た事情を話し始めた。
 浩一は、結婚と同時にマンションを買って家を出たのだが、そのマンションが欠陥住宅であることがわかって、退去しなければならなくなったのである。出て行けと言われても、すぐに替りの住居がみつかるわけでもないし、ローンと家賃の二重払いもきついということで、とりあえず実家に戻って来たのだと言う。
「でも、困ったわね。私たち、明日から旅行なのよ。」
 母が言った。両親は明日から一週間、北海道に旅行に行くことになっているのだ。
「構わないよ、父さんと母さんは、ゆっくりと旅行を楽しんでくればいいさ。家のことは真季にやってもらうから。」
「ええ。勝手に押しかけて来ちゃったんですから、何かしておくことがあったらおっしゃってください。」
 真季が笑顔を浮かべ、柔らかな物腰で姑に言った。打ち解けた雰囲気の中にも、ふとした態度で育ちの良さを感じさせる。
「雄二君も、何かあったら、遠慮なく言ってね。」
「…う、うん…」
 まぶしいばかりの真季の笑顔を向けられ、雄二は完全に舞い上がってしまった。
 兄の浩一が初めて真季を家に連れて来た日のことを、雄二は今でもはっきりと覚えている。
「紹介するよ。俺の彼女だ。」
 そう言う兄の横に座っていたのは、まさに雄二の「理想の女性」そのものだった。
 まず、ハッとするぐらいの美人だ。テレビに出ている女優や、ファッション雑誌のモデルと比べても見劣りしない。
 しかも、「美人」と言っても、近寄り難い感じはまったくない。しっとりした大人の女の雰囲気を持ちながら、ややふっくらとした頬の線とパッチリした大きな目が少女っぽさを残しているため、雄二から見ても、年上だということを忘れさせ、「可愛い」と思わせる容姿である。
 知的で、言動に品があるのも雄二の理想にぴったりだった。
浩一の大学時代の恩師にあたる教授の娘だと聞いて、雄二は深く納得した。
 さらに、優しく思いやりにあふれた性格を知るに及んで、真季は雄二の崇拝の対象となった。
 兄が真季と婚約したことを聞いた雄二は、最初、真季が家族になることに大きな喜びを感じ、次に、兄の嫁になることに気づいて、胸が苦しくなるのを感じた。


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