庶民なのです-4
こういう時、オドオドするのはいつも輝くんなのだ。
見た目は男らしいのに、こういう所がちょっと頼りないんだよね。
彼の優しい所は大好きだけど、リードするタイプじゃないから、いつも、何でも仕切るのは私の方。
家族旅行だって、いつも私がホテルの予約したり、周りの観光地のスケジュールも、私が組んだり下調べしたり。
まあ、今日のデートについては、私がサプライズ的に考えたものだから、それは仕方ないんだけど。
でも、本音は輝くんからリードしてくれたらなあ、なんて思う。
二人きりでデート出来るのは嬉しいんだけど、だけど、こういうちょっぴり情けないとこを見ると、もうちょっとグイグイ引っ張って欲しいって思っちゃうんだよね。
そんな私の心の内を知らない輝くんは、不安そうにキョロキョロ震えていて、小動物っぽくなっていた。
……仕方ない、輝くんはこういう人なんだ。
小さくため息を吐いてから、私はニッコリ笑いかける。
「大丈夫だってば! パパのその格好、すごく似合ってて素敵だよ。だから、もっと堂々としてなよ」
天慈くんが貸してくれたらしい、黒のジャケットは麻だから暑苦しくないし、白いシャツだってパリッとアイロンがきいていて清潔感があるし、コットンパンツはファストファッションの安物だけど、足の長い輝くんが履くだけですごくサマになっている。
人の親になって、所帯染みたおっさんになってしまったのは否めないけど、改めて見ると、輝くんは贔屓目を差し引いても、結構いい男だったのかも、と感心する。
顎を掴みながら、上から下までなめ回すように見つめていた私は、一つ小さく頷いてから、輝くんの腕に自分のそれを絡ませた。
「ホントに大丈夫だよ。すごくカッコいい」
ポロッと出た言葉が意外だったのか、カッと輝くんの頬が赤くなる。
誉め言葉に慣れてない輝くんを見ると、何だかんだの不満もどうでもよくなってくる。
ま、いいか。
そんな彼を可愛く思いながら、私達はホテルの最上階にある、レストラン「ディアマンテ」へと向かった。