翼をください-5
しかしそれは、本当に夢になってしまった。
ある日、緑の地域では滅多に無い地震が起きて地滑りが発生したのだ。
飛べる者達は空に避難して難なく窮地を脱したが、陰送りになっている者達はそうはいかない。
地面が揺れたかと思った途端、崖の崩れる轟音が響き渡り、成す術もなくあっという間に岩に押し潰された。
小さい身体のリョウツゥは、岩の隙間に潜り込む形で奇跡的に助かった。
あちこちで助けを求める声と呻き声がする中、リョウツゥは岩の隙間を何とかして移動する。
そして、目当ての人物を見つけた。
「!……バインさんっ」
見慣れた手が岩の間からはみ出ていた。
緊張であり得ない程大きく心臓が脈打つ。
手が傷だらけになるのも構わず、必死になって石くれを掻き分けて進んだ。
「バインさん、バインさん」
やっと辿り着いたリョウツゥは血まみれの手でバインの手を握る。
しかし、バインの手は冷たく、岩の向こう側からは大量の血が染み出ていた。
「あ……あぁ……バイン……さん」
リョウツゥは一生懸命バインの冷たい手を擦って暖めようとする。
無駄かもしれないが、何もしないよりはマシだと思ったからだ。
暫くそうしていると冷たい手がピクリと、微かに動いた。
「… … リョウツゥ… か?」
「はい、リョウツゥです。バインさん」
小さく聞こえた掠れ声に、リョウツゥは強くバインの手を握る。
「ああ … リョウツゥ… …すまない …約束を …守れそうに… 無い …」
「バインさん、ダメです。約束は……守る為にあるんですからっ」
だから、お願いだから……
「リョウツゥは …厳しい… な …」
途切れ途切れのバインの口調が弱々しく笑った。
「なぁ …俺の荷物… お前にやるから …さ」
バインの手が少し動いて、偶然リョウツゥの小指と絡む。
「 飛んでくれ 」
「バインさん!」
バインはそれきり動かなくなってしまった。
「イヤ、イヤですっバインさん!ねえ、お願いしますっ……お願いだからっ……」
リョウツゥは激しく首を振って止めどなく涙を流し、バインの手を強く強く握った。
「……1人に……しないでぇ……」
しかし、大きくて冷たい手はもうピクリとも動かない。
リョウツゥはそれにすがって嗚咽を漏らし続けたのだった。