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エスが続く
【OL/お姉さん 官能小説】

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4. Speak Low-10

「ええっ!」
 父親の姉だ。生花教室をやっているがお見合いの斡旋が大好き。容姿の良さにそれなりの学歴もあってどこに出しても高値を付けそうな悦子は随分前から最大のターゲーットとされていた。まだ若いからだの、まず仕事で一人前になりたいだの、のらりくらりと躱してきていたが、さすがにこの歳で、しかも長職になっているのも伝わっているだろうから、言い訳するのも苦しい。
「お前、このままだと見合いさせられるぜ?」
「やだよっ、兄ちゃん。断って!」
「俺にはおばちゃん止めれん」兄は笑って、「やから彼氏を家に連れてきて、ちゃんと皆に男いるぞって言ったら佳子おばちゃんも納得するら?」
「そんな……」
 もう一度悦子は平松を見た。これを連れて行く? 付き合った当初から随分改善はされているが、あと5キロ……、いや3キロ落とさなければ――。
「まぁ、それもちゃんと考えとけよ」
 悦子は切れた電話をゆっくりと下ろして平松を見た。
「何かあった?」
 朗らかに見つめてきてくれる。眼差しに愛を感じます。兄と話して、父母の歳と、かつこうして平松と付き合っている先には現実的に兄が言うような『ゴール』があるべくしてあると思い知らされた。平松はともかく、自分はそれが切実な歳なのだ。佳子おばちゃんの用意するゴールなどまっぴらゴメンだ。だが、そもそも平松はそのゴール意識してるのだろうか……。こんな平日の夜、脳天気なテレビが流れる前ではとても聞けない話題だったから悦子は一度首を傾げて他愛もない話をするように、
「うん……、父ちゃん、ちょっと怪我したみたい」
 と言った。
「えっ、大丈夫なの?」
「んー、ヒビ入ったみたいだけど、命には別状がないって」
 彼女の父親の容態に、ほっ、と息をついてくれる。悦子の家族も大事に思ってくれているようだ。それって、やっぱりそういうこと?
「よかったね。……でも切る前にお兄さんとケンカしてなかった?」
「いや、ケンカなんかしてないよ」
 兄の言葉を思い出す。父母と会うのはもう数えることができるくらいしかないかもしれない。そして父母に一度くらい娘の恋人を見せてやるのも親孝行というやつかもしれない。それがたとえこんなでも。
 悦子は平松のほうを向き、
「……まあ、ちょっと、今週末に実家帰ってくる」
 と言った。
「そうだね。そうしてあげたほうがいいよ」
 平松が頷く。そして……、悦子は流れで兄に言われたことを伝えようかと思ったが、緊張に声が出てこず、しばらく唇の開閉を続けたあとに黙った。どう言おう。ちょっと実家に一緒に来る? 軽く言っても重いかな。お願いです、実家に一緒に来て両親に会ってください。めすどれいにそんなこと言われたらオーナーはドン引きしてしまいますか?
 悦子が思いを巡らせすぎて頭からバネを飛ばしそうになったところへ、
「……俺も、一緒に行っていい?」
 と聞こえてきた。
「……」悦子はきょとんとした顔を向けて、「……近くに待っているような面白いところ、ないよ?」
「いや、出張じゃないんだから。……え、悦子の実家に」
「何しに?」
「……挨拶」
 おお。
 それってば、やっぱり行く行くはそういうつもりなんだよね、翔ちゃん! 
 しがみついて質そうとしたが寸でのところで思いとどまった。いや、重い重い、重いって。きょうび高校生だって自宅に彼氏を連れてきて親に紹介している。付き合ってるんだから、親にも会っておかななければくらいの軽めのノリだろう。会っているのは圧倒的に家の中が多いから、二人で外出したいというのもあるのかもしれない。でも、地元で手繋いだらだめだよ? 恥ずかしすぎる。
「ウチの家族、ちょっと変わってるよ?」
「……お父さんコワいんだよね?」
「コワいっていうかただの暴力親父だけど。でも、兄ちゃんが、怪我して弱ってるかもって言ってたから、行くなら今かもねー」
 悦子は心中をひた隠して、冗談めかし努めて笑いながら言った。
「……」平松もぎこちない笑みを浮かべて間を置いてから、「行くよ」
「……ま、まあ、別にイヤじゃなかったら来たらいいんじゃん?」
 言い出したのは平松だが、やはり人生初めて彼女の実家は緊張を催さずにはいられないのだろう、車に乗ってからも兄と早智に自分から話しかけることはできなかった。これであの父親の前に出るなんて大丈夫かなあ、悦子が顔が強ばっている平松を心配していると、
「っていうか、今日彼氏連れてくるなんて思ってもみなかった」
 と運転しながら兄が言った。あんたが言い出したんだろ、と非難してやろうとした矢先、
「やー、悦っちゃんが家に彼氏連れてくるなんて初めてだに?」
 と助手席で早智が振り返ってきてウインクをした。実家に帰る。もう一人連れて。それを悦子から母親にでも連絡しようとしたができずに、早智にメールを打って母親と父親に伝えてもらうよう依頼すると、その引き換えに早智から根掘り葉掘りの問い合わせが届いた。協力してもらっているのだから極力答えてやり、まだぜんぜんそういうのじゃないから、あんまり結婚話とか持ちだして重い感じにならないようによろしく、と頼むと、彼氏が引かないか心配している女の可愛げを見せた義妹に早智は頼もしく了解した。


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