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桜の降る時
【初恋 恋愛小説】

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満月の長い夜―霞の章―-1

 はぁぁ〜。もうやだっ!
 参考書を閉じ、机の上に突っ伏する。
 夏休みは遊んでばかりいたあたし。秋になり涼しい日が多くなるにつれて、クラス中が受験という色に染まる。さすがのあたしも勉強しなきゃ、という気持ちになり毎日、毎日、受験勉強。
 蓮ともろくにデートもできない。学校では教師と生徒のあたしたち。今は電話でしか恋人同士の会話ができなかった。
 蓮は仕事が終わり、家に帰ってくると必ず電話をくれた。蓮との電話で話す時間だけが毎日の楽しみだった。それ以外は勉強、勉強、勉強。
 看護師を目指してるあたしは看護の専門学校を受験する予定。学校の成績はわりといい方だった。一部の先生なんかは優等生の水城、なんてあたしを呼ぶ。成績はいいけど、別に特別いい子ちゃんなんかじゃないのに。
 看護学校は受験の倍率が恐ろしいほどに高い。学校の成績がいいからってしっかり受験勉強しないと合格は難しい。
 だから毎日、必死で勉強していた。蓮と会うのも我慢して。蓮は教師だから、あたしが勉強が大変で会えないこともちゃんと理解してくれる。勉強の合間に電話をくれてあたしの気分転換をしてくれていた。
 今日も電話をくれて、少し蓮と話した後、また勉強してたけど、もう限界。
 気分転換に、と窓を開けてみた。涼しい秋風が部屋の中に入ってくる。英単語やら、数学の公式やらを詰め込んだ頭はすっかり熱くなっていた。秋の夜風が心地よかった。
 今日は満月か。蓮も見てるかな?きれい…。でも、月明かりってなんだか淋しい。
 あたしはなぜか淋しい気持ちでいっぱいになっていた。勉強してるとネガティブになるのはあたしだけかな?なんでも悪い方に考えてしまう。
 蓮はあたしと会えなくて淋しくないのかな。…大人だもんね。会えないのはしょうがないって割り切れるのかもね。あたしは…無理。会いたくて会いたくてしかたない。
 こんな時、さくらだったら…、さくらはなんて思うんだろう。
 ふと、前世の自分が気になった。
 さくら…。前世のあたし。さくらの記憶はあんまり思い出してない。最近は夢をみることもなくなった。最後に夢をみたのは花火大会に行く、蓮の車の中でだった。前世の蓮に、看護師にむいてるんじゃないかって言われた、あの夢以来みていない。
 あたしはいつの頃からか、気が付いたら看護師になることを目指してきた。なんでなりたいのかはよくわからない。でも、なぜか看護師にならなくちゃいけない気がしていた。
 もしかしたら、さくらの、前世のあたしの記憶が残ってるからなのかな?きっとさくらは親の言い付け通り医者になったに違いない。さくらが看護師になれなかった代わりに、あたしが看護師を目指してるのかな。
 あたしはさくらの代わりなの?さくらのできなかったことをするために、あたしはあたしとして生まれ変わったのかな?ふと、そんなことを考えた。
 考えはどんどんマイナスになっていく。
 蓮と出会ったのも…、前世で蓮とさくらが結ばれなかったから、さくらの代わりにあたしが出会ったの?蓮も…、さくらの代わりのあたしを探してたのかな?さくらの生まれ変わりだからあたしを好きになったのかな?
 そんなことばかり考えていたら涙がこぼれた。
 あたしは前世なんて関係ない。前世で蓮のことを好きだったから蓮を好きになったわけじゃなくて、ただ、藤森 蓮という人間を好きになったの。
 じゃあ蓮は?蓮はさくらとあたしとどっちを愛してるんだろう?蓮が必要としてるのは、さくらの生まれ変わりとしてのあたし?それとも…。前世とか関係なく、水城 霞としてのあたし?
 考えは不安に変わっていく。蓮が好きなのは、さくら?あたし?蓮は今、何を考えてるんだろう?
 あたしは勉強してたって頭の片隅では蓮のことばかり考えてる。
 いつの間にこんなに蓮を好きになっていたんだろう?自分でもわからない。気が付いたら、蓮が好きで好きで、会いたくて会いたくて、いつだってそばにいたい、離れたくないって思うようになっていた。


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