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桜の降る時
【初恋 恋愛小説】

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満月の長い夜-2

 霞の夢の話を聞いたのだ。夢の中の霞は、桜の下で誰かをずっと待っていて、でも来なくて、悲しくて目が覚めるのだ、と。
 その話を聞いた俺は、霞がさくらの生まれ変わりだと確信した。さくらの生まれ変わりと出会えた、ということよりも霞がさくらの生まれ変わりだということが嬉しかった。
 これで、霞を好きになっても許される。だって霞はさくらなんだから。
 そうして俺と霞は付き合い始めた。俺はどんどん霞にひかれていった。
 霞を好きになればなるほど俺はまた戸惑った。なぜなら霞にはさくらとは似ていない部分がたくさんあったから。似ている部分もあった。でも、さくらとは違う霞にひかれていっているような気がしていた。
 俺はさくらと似ている霞を好きにならなければいけないんじゃないか。さくらと似ていない霞にひかれるのは、さくらと別の人間を愛していることになるんじゃないか、と。ずっとずっと悩んでいた。
 あの雨の日のドライブで前世の俺がさくらの父に殺されたことを知った霞は、自分のせいだと泣きじゃくった。そんな霞に、俺は今を大事にしようと言った。俺と霞の今、を。
 そうしたいのは俺の方だった。今の俺がさくらとしてじゃなくて、霞として愛したかったんだ。
 「はっくしょんっ!」
 大きなくしゃみをして俺は回想の世界から現実の世界へ戻ってきた。
 ついこの前まで、暑かったのに、最近じゃ夜はめっきり冷えるようになってきた。
 「夏、か。」
 再び煙草に火をつけると、今度は花火大会のことを思い出した。
 あの日はなぜかさくらへの気持ちが大きかった。さくらと霞と、俺が愛してるのはどっちなんだと悩んだりした。今となっては笑い話だ。どっち、とか比べる対象じゃないんだから。あの日、さくらへの思いが強かったのはきっと、霞が一瞬、さくらになったように、俺の中にも前世の蓮と今の俺の2人がいたからだろう。
 あの時、蓮とさくらは言った。もう前世の記憶に縛られないで、と。
 今の俺なら胸を張って言える。俺は水城霞を愛しているんだ、と。
 携帯が鳴った。この着信音は霞だ。
 霞のことを考え、せつなくなっていた俺は、霞からの電話がいつも以上に嬉しかった。
 「もしもし、蓮?もーぅ、頭パンクしそう!勉強いやだぁ〜!」
 1回目の電話からもうたっぷり1時間以上が過ぎていた。俺が思い出に浸っていた間、霞はずっと勉強していたのだろう。必死に勉強しているだろう霞の姿を頭に思い浮べると、また霞が愛しく思えた。
 「おつかれ。がんばってるみたいだね。」
 「うーん。まあ、そこそこかな?蓮は何してたの?」
 「ん?俺?俺は考え事。」
 「なになに?…もしかして…さくらのこと?」
 「なんでわかったの?霞、エスパー?(笑)」
 ほんとはほとんど、霞のことを考えていたけど、照れ臭くてそんなこと言えなかった。
 「ふぅん…。そっか…。あ、もうこんな時間!そろそろ寝なきゃ。おやすみ、蓮。」
 電話を切った俺の心の中は、さっきの切ない気持ちはどこかへ行っていた。代わりに霞と想い合えている、という喜びでいっぱいだった。
 …霞の気持ちなんて知らずに。
 いつも話を続けたがる霞がいやに早く電話を切った理由。俺は霞の気持ちに、思いに、気付くことすらできなかった。
 1人、幸せな気持ちで眠りについていた…。


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