満月の長い夜―霞の章―-2
蓮と出会うまで初恋もまだだったあたし。蓮が生まれて初めて好きになった人で、恋人になった人。
そんな蓮が、藤森 蓮が好きで好きでたまらなくなっていた。
いけない。受験勉強してたせいで少しナーバスになりすぎてるのかも。
電話してみようかな?もしかしたら、蓮だって今、あたしのこと考えてくれてるかもしれないしね。
夜空をひっそりと照らす月を見ながらそう決めた。小さいけど、真っ暗な夜空を照らす月明かり。
今のあたしの心の中はまるで真っ暗な夜空みたいだった。暗い夜空に、ひっそりと輝く月明かりがあるように、あたしの心の中にも月明かりのようなひっそりとした、でも、確かな希望があるはず…。
蓮に電話をかけてみた。携帯の向こうから、もしもし、と大好きな蓮の声が聞こえる。
「もしもし、蓮?もーぅ、頭パンクしそう!勉強いやだぁ〜!」
完全にマイナス思考のあたしは落ち込んでいることを蓮に悟られないように、わざと明るく努めた。
「おつかれ。がんばってるみたいだね。」
「うーん。まあ、そこそこかな?蓮は何してたの?」
「ん?俺?俺は考え事。」 考え事…。まさか、さくらのことじゃないよね?そんなわけないよね?違うよね?あたしは祈るような気持ちで蓮に聞いてみた。
「なになに?…もしかして…さくらのこと?」
「なんでわかったの?霞、エスパー?(笑)」
蓮は笑いながら答える。そんな蓮の声が遠くに聞こえる。嘘でしょ?なんで?なんでなの蓮…。あたしがこんなに蓮のことで悩んでる時に、蓮はさくらのことなんて考えてたの?
心がぎゅっと締め付けられる。喉の奥が熱くなる。涙が溢れてくる。
「ふぅん…。そっか…。あ、もうこんな時間!そろそろ寝なきゃ。おやすみ、蓮。」
泣いてることを気付かれないようにそれだけ言い電話を切った。
蓮…。なんで?どうして?蓮が好きなのはあたしじゃなくて、さくらなの?
さっきまで心地よかったはずの秋の夜風がやたら冷たく感じた。あたしの涙はいつまでも止まらなかった。