始まりの泉-1
「ついに……ついに来たゼっ!王都クアトリア!!」
大きな噴水の縁に立った青年が、両手を上に挙げて雄叫びを上げている。
ここは王都クアトリアの中心にある名所『始まりの泉』。
世界の始まりを模した巨大な壁画と像があり、滝のように水が流れたり、時間によっては曲に合わせて噴水が出たりする。
しかし、噴水の縁に天を仰いで叫ぶ怪しい人物が居ては誰も名所を楽しめない。
怪しい青年の頭髪は水色で、その髪を掻き分けて青い毛に包まれた狐の様な大きな耳がにょっきりと生えていた。
お尻にはフッサフサの大きな尻尾……どうやら銀の地域出身らしい。
銀の地域に住む人々は『銀の民』と呼ばれ、身体に獣の特徴がある。
地下資源が豊富な地域な為、深く暗い坑道で作業するのに暗闇でも良く見える目、鋭い聴覚と臭覚、広大な大地を駆け巡る為の強靭な四肢を持っているのだ。
そんな彼の獣耳はピーンと立ち、尻尾はぶわっと毛羽立っていた。
相当、興奮しているらしい。
ひゅーん
こーん
「イテ」
そんな中、勇気ある誰かが何かを投げ、不審人物に見事ヒットした。
「誰でぃっ!?」
青年は後頭部をさすりながらぐるりと振り向く。
同時に周りに居た人々がザザッと波が引く様に下がる。
その波の中、ポツンと1人だけ残された女の子が居た。
彼女は噴水に背を向けて両手を握り、ジッと目を閉じている。
「おいっ」
不審人物は噴水の縁から降りて女の子に声をかけた。
しかし、彼女は微動だにしない。
小麦色の髪は耳の上で2つに分けてくくられ、所々細い三つ編みになっている所に黒い羽根が飾られていた。
ミニスカートのお尻部分からは黒い尾羽根が生えている。
彼女は緑の地域出身の『緑の民』のようだ。
高い山々がそびえる緑の地域では普通の移動手段は使えない。
よってそこに住む人々は鳥の様に空を飛ぶ事の出来る翼を持っているのだ。
その翼は今は彼女の背中に見えない。
「こらっ!」
不審人物は動かない彼女の左肩を掴んでグイッと引いた。
「!!きゃああぁっ!!」
バサアッ
突然、肩を掴まれた女の子は盛大に悲鳴をあげ、同時に背中に黒く巨大な翼が出現した。