始まりの泉-5
「わわっ、は、はいぃ」
「入ったぞ」
「え?」
「コイン。ちゃんと入った」
見上げる不審人物の目の前で女の子の顔が見る間に輝いていった。
つられて不審人物も嬉しくなり、にこぉっと笑う。
そして担いでいた女の子を肩から降ろし、首をコキコキ鳴らした。
「ぁ、ごめんなさい」
重かったでしょ?と恐縮する女の子に、不審人物は答える。
「つうか、もちっと肉つけた方がいんじゃね?」
せっかく女の子を肩車というナイスなシチュエーションだったのに、太股の肉感がちょっと足りなかった。
「なっ……」
女の子は今更ながらミニスカートを押さえ、顔を真っ赤にする。
「そういや、さっきの兄ちゃんはどこ行ったんだ?」
「ぁ」
女の子の羞恥心など意に介せず、不審人物はキョロキョロと周りを見回した。
女の子もつられて周りを見るが、人混みばかりで目当ての人は見つかりそうにない。
「ま、いっか。じゃオレも行こ」
サクサクと話題を変えてテキパキ動く不審人物に、女の子は遅れて対応する。
「ぁ、あの……」
「ジル」
「はぃ?」
「オレの名前、ジルってんだ」
突然名乗られて女の子は慌てて自分も名乗った。
「あ、私はリョウツゥです。緑の地域から……」
深々と頭を下げて挨拶をしていたのに、顔を上げたらもうジルと名乗った不審人物は居なくなっていた。
「……あれ……?」
キョトンと目を瞬くリョウツゥの耳に、遠くからジルが叫ぶ声が届く。
「じゃ〜な〜」
声の方に目を向けると、人混みの向こう側に青い耳とブンブン振られる手が見えた。
いったいいつの間にそんな遠くまで移動したのか、とリョウツゥが唖然としているとジルが更に言葉を続ける。
「願い事、叶うと良いなぁ!」
もう声しか聞こえないが、リョウツゥはそっちの方向に向かって大きな声で答えたのだった。
「はい!」
ー続くー