3. Softly, as in a Morning Sunrise-26
「9人もしたんだ。本当はもっといる?」
「んっ……、そんなの、……か、関係ない」
「関係あるよ。俺の悦子を知ってる奴がそんなにいるなんてさ。もっといるかもしれないんでしょ?」
マッサージ器のヘッドが中心に当たると、ポケットの中のローターと噛み合って、クリトリスに強い刺激がもたらされる。それを続け、更に強く押し当ててくれさえすれば、長時間その艶美な肢体に溜め込まれつづけている淫らな煩悶を解放できるのに、いよいよという頃になるとヘッドは無情に離れていってしまう。
「うああっ……、翔ちゃんっ!!」
狂ってしまう。狂ってしまっては平松の愛しみも慈しみも感じることができなくなってしまうかもしれないという絶望が、悦子に大声を上げさせた。「お願いっ……、おねがいします。……翔ちゃんが欲しいっ、おねがいします……」
「欲しい? 9人もしてきたのに」
マッサージ器を押し当てられながら、悦子は拘束されているのは分かっているのに平松に巻きつこうと手を伸ばしチェーンを鳴らして、平松を恃む悲愴な眼差しを向けて、
「こんなふうになるの翔ちゃんしかいないっ! ……他の誰もこんなに好きにならなかった。他の誰もこんなに好きって思われてるって感じたこと無いっ……。翔ちゃん……、おねがい」
と言ってから、平松の名を繰り返した。これまでにない悦子の妖美に平松もいてもたってもいられなくなって、脚の間で膝立ちになってズボンを緩め始めた。
「俺以上に悦子を好きな奴いないよ? わかった?」
「わかってる。……すごく」
悦子のあまりの愛しさに全裸になる余裕は平松からなくなっていた。前窓から透明液を噴きこぼし、湯気が立つかというほど硬く屹立している男茎を取り出すと、ベッドサイドのチェストの引き出しに仕舞ってあるコンドームの箱を取り出し、蓋を開けた。
「あっ……!」
平松の男茎が開いた脚の向こうに屹立しているのが見えて、それだけで息を喘がせながら装着を待っていた悦子へ、「ご、ごめん……。ゴム、無い」
箱の中身は全て破かれたビニールの綴りがあるだけだった。
「すぐに買ってくる」
甲斐性の無さを恥じるようにベッドを降りようとした平松の体を、咄嗟に悦子は長い脚で制した。
「……翔ちゃんっ」
「ん?」
「こ、このまま待ってられない……」
「あ、……一旦、解くよ、手……」
平松が手枷を解こうと手を伸ばそうとすると、悦子はかぶりを振った。
「ちがう……」
「え?」
悦子は一度鼻を啜って、曖昧な笑みを浮かべながら、
「翔ちゃん、さっき訊いてくれなかったことある……」
と言った。
「どういうこと?」
「わたし……、避妊かならずしてきた。全員」
「うん」
「だからっ」
悦子は耳先まで真っ赤に染め上げて、それでも平松からは目を逸らさずに、「避妊しないではしたことない。……翔ちゃん、私の『初めて』好きなんじゃなかったの?」
「えっ」さすがに平松はひるんで、「い、いいの……?」
「私の、ぜんぶ、翔ちゃんのものだって聞かされてる」
平松は手枷を解こうとしていた手をそのまま腕を上げた悦子の脇のそばについて、悦子の下肢にもう一方の手をのばしていく。ショートパンツの前面にあしらわれていた左右四つのピンを外すとローターごと前面の一部が剥がれ落ち、黒いショーツが顕になる。
「悦子……、すごいよ」
ラテックスは水分を全く吸収しない。ゴムを延ばしてショーツの裂窓を開くとヘアの無い悦子の秘丘は漏らした蜜が白く濁って濡れ塗れていた。その中心では媚肉の狭間がまるで呼吸をするかのように愛する肉塊の来訪を待ち焦がれている。悦子の切なげな表情と脚の間の様子に新たな先走りを漏らした男茎の根元を握ると、そのまま狭間へと押し当てていく。
「んっ、くっ……、え、悦子……。ちゃ、ちゃんと、そ、外に出すからね……」
これまでのセックスよりも熱い柔肌の感触に腰を戦慄かせて平松が呻いた。
「んっ……、か、顔……?」
「うん、出すなら顔がいい……」
悦子が笑顔を漏らして、
「いいよ、いっぱいかけて……」
と言うと、平松は獣のような雄叫びを上げながら男茎を悦子の体内へ沈めていった。亀頭や幹を擦ってくる感触が、たった一枚の薄皮がなくなっただけなのにあまりにも峻烈だった。悦子もまた待ちに待った男茎が淫欲と愛念で体を広げてきて、入ってきただけで絶頂に向かって内部を収縮し始めた。絞り上げられるように男茎が引き込まれて、最奥の軟蓋を尖端が押し上げた瞬間に悦子は絶頂に達した。
「わっ……!」
絶頂の余韻の中で悦子は思わず驚きの声を上げていた。男茎を締め上げたとき、その尖端から熱い噴出が始まっていたのだ。体の奥地でヌメりながらも灼熱の夥しい粘液が一気に流れこんでくる。平松が切なげな声で悦子に謝りつつも、両手をついて悦子に覆いかぶさって何度も下腹部を震わせる。長い射精で全てを絞りだすと、我に返ったように平松は身を起こしつつ、
「あっ、ご、ごめっ……」
と悦子から抜け出ようとした。
「だめっ……」
悦子が長い脚を平松の腰に巻きつかせて制する。