3. Softly, as in a Morning Sunrise-2
「……」
だが悦子が嗚咽に鼻を啜り、涙目に小皿の上の肉を眺めているのを見て、どうやらこれは真面目な話だと思った美穂は、
「ちょ、悦子。どーしたの?」
と悦子のすぐ前のテーブルを叩いて気を確かに持たせようとした。
「……証だって言ってくれたのに」
「証? は? なんのこと?」
平松は半年経っても変わらず恋人の時間は悦子を愉楽に浸してくれた。付き合い始めた当初と回数がどう変わったかは分からない。だが終わった後の充実感は変わらないどころかより色濃くなっていた。
体じゅうを愛しみに包まれながら、一段落つけたあと二人で風呂に入る時間が悦子は何より好きになっていた。たっぷりのボディーソープに包まれて洗い合ったあと、二人で湯船につかり、平松の緩んだ体に抱かれていると仕事の疲れも性交の疲れも癒やされていく。耳元で睦まじい言葉を囁かれて和んでいると、やがてドキリとする言葉を投げかけられて、うん、と少女のような声で了承する。
「んっ……」
一段落は、一段落だ。縁に腰掛けた平松の脚の間へ、湯船に浸ったまま立膝で身を寄せると、まだ屹立する洗ったばかりの男茎へ唇を這わせていく。平松の生命すら感じながら、唇を搾り舌をネットリと押し当てて、口端からジュブッと音が鳴るのも厭わずに奉仕を続けた。洗い髪に手を添えて優しく頭を撫でられているといかにも愛されているという気分になって、自分も平松を愛していることを伝えなければと更に濃密に男茎を慈しんだ。
「悦子」
頭に添えられていた手が前後に動く悦子を押し留める。強めに吸い上げ弾ける音を鳴らして唇から抜き取った悦子は、平松に無言で見下ろされて、合図を得たように爪先を湯船の底につけ、背を反らして伸ばした正座で平松を見上げた。両腕は自分でバストを抱きしめるように巻きつける。そうしなければこれからされることに対する慄きが抑えられないからだ。水面を跳ねさせて腰を浮かせた平松が男茎の根元を持って悦子へと腰を突き出してくる。
「あ……、……ん、……は、……」
額や鼻筋、頬に押し当てられる亀頭が新たに噴きこぼした粘液を肌に塗りつけながら顔中へ擦りつけられると、触れる度に声が漏れた。平松はこうやって顔に擦りつけるのが好きだった。確かに悦子の顔を擦る度に男茎に悦びの痙攣が起こっているのを肌で感じる。
「すごくヤラしい顔になってるよ」
顔を平松に預ける段になると必ず言われる言葉だったが、何度言われてもマンネリにはならずに悦子の鼓動を早めさせた。男茎が顔を擦ると、今の今まで口に含んでいた感触が思い出されて、口内に唾液が溜まってくる。それを飲み込みながら、男茎へ向かって顔を上げている自分の顔貌は、平松の言うとおり淫らなものになっているに違いなかった。
「……わ、わたしの顔、好き……?」
「うん。大好きだよ、悦子のエッチな顔」
「……。じゃ、もっと翔ちゃんので擦って」
問えばそう答えてくれる。だから恥しくとも、平松が求めてくれば顔を差し出して、そんなことが言えるのだ。
「悦子、そろそろいい?」
「うん……。……今日も手でしてあげたほうがいい?」
バストを抱いていた腕を解いて、平松の幹に片手を添え、もう一方の手はその下で息づくように伸縮している陰嚢を優しく包み込んだ。
「してあげるんじゃなくて、したいんでしょ?」
「んっ……」平松の指摘に、悦子は瞼を強く閉じる瞬きを一度した後に再び見上げて、「そ、そうです。……、しょ、翔ちゃんの、させてください……」
「いいよ。……悦子、いっぱい絞り出して」
平松の指示に熱い吐息を漏らしながら尖端から漏れた粘液を握った隙間に纏わせて、悦子は手首を使って男茎を扱いた。速度を上げていくと、擽っている手のひらの中で陰嚢が収縮していく。
「うっ……、出すよ、悦子」
「んっ……、いいよ。思いっきり出してっ……。顔にいっぱいしてっ」
そうハッキリ口にして懇願したほうが平松の爆発力が上がる。悦子は男茎をしっかり自分の方へ向けてより強く男茎を握って、既に把握している平松のウィークポイントが刺激されるように握りを調節した。呻き声を上げた平松の脚が水面を波打たせると、尖端から夥しい精液が勢い良く放たれてきた。額や頬にしぶきとなって撒き散らされながら、白い光線のような射精が悦子の鼻面や口元を叩く。風呂に入る前にあれだけベッドの上で放出してもなお自分に擦りつけることで濃厚になった放出を顔を上げて受け止める。緩めて開いた唇の間にも飛び込んでくる。舌の上に放たれてくる何にも形容しがたい平松の味を感じて悦子は息を震わせた。
「……ベトベトだね、悦子」
思う存分放出して息を切らした平松が、頭を撫でながら悦子の顔を自分の方へ向けさせて優しい声音で言葉をかける。
「うん……。……翔ちゃんがいっぱい出してくれるから」
「ザーメン好き?」
「すき。……ううん、翔ちゃんのが、すごい好きなの」