2. Sentimental Journey -6
「んうっ……、や……」
熱い雫に顔から首筋、そして弱い耳元まで叩かれて悦子は小康へ向かい始めていた絶頂の甘い余韻を呼び戻されていた。想定していた以上に平松の放出は夥しかった。額や鼻筋を泥濘が這うようにゆっくりと流れ落ちてくる。
「悦子……、す、すごく気持ちよかった」
息を乱しながら、小さな粒が飛んだ髪を撫でてくる。「うれしい。させてくれて」
「んっ……、多すぎるよぉっ」
「すごく可愛いよ」
平松の言葉が胸を溶かしてくる。精液をかぶらされた顔を本気でそう評してくれているのは声のトーンで分かった。
「ホントにそう思ってる?」
「うん。……昼間の悦子からは考えられないから、すごく興奮するよ」
平松の指が頬に溜着している精液を掬い取り、唇に押し当ててくる。催促されるままに口を開いて粘液を舌で舐めとると、途端に口内から鼻腔へ平松の匂いが充満していった。
「……濃い」
「おいしい?」
「おいしくない。……けど」
もう一度掬われた白濁が口元に向けられても悦子は口を開いてしゃぶっていた。濃厚な精液の味はとても美味しいと言えるものではない。だが噎せるような味覚と匂いに鼻口を満たされると、自分でそんなにも出してくれたという喜びが起こってきた。
「口でおそうじして」
だから平松がそう願い出てくると、悦子は逡巡することなく放出の主に唇を向けていった。初めて口にする男茎だった。いつもこの長い男茎で奥の奥まで愛しんでくれている。幹に垂れている雫を下から上に何度も舐めとってから、尖端の穴にキスをするように唇を吸着させると尿道から残滓が舌の上に迸って、指で舐めさせられたよりも峻烈な平松の息吹を鼻腔に感じた。
「好きだよ、悦子……」
唇と尖端に光る糸を引いて顔を上げた悦子は、
「……約束守って」
男茎を握って平松を見た。絶頂に至ったばかりなのに、平松の男茎に生まれて初めての奉仕をしていると新たな蜜が下腹部に浸ってきていた。おいで、と平松がベッドの上に誘ってくる。かぶった精液を拭うこともなく仰向けにされてのしかかられ、ブラウスの上からバストを弄られ始めると、悦子はしなやかな体を捩らせて平松に抱きついていた。
――また途中からよくわかんなくなっちゃった。
宣言していたとおり、平松と浴室にいた。せっかく溜めた湯を追い焚きをしなければならないほどの時間交わっていた。平松が先に湯船に浸かっている。その傍で悦子は洗い場で化粧と、乾いて顔を突っ張らせていた平松の悦びの体液を洗った。もうスッピンは平松に明かしている。化粧を落とした悦子を見て、化粧していないと可愛らしい感じになるね、と言ってくれた。どっちの悦子も好きだよ、とも。
「ふうっ」
化粧を落とした時の爽快感はたまらない。息をついて湯船を見やると、平松が身を端に寄せて脚を開いていた。それほど大きな浴槽ではないが、その狭いスペースに向かって脚をあげて入っていく。長い脚を曲げて座らなければ収まることはできなかったが、背中を平松に押し付けるように凭れかかっていくと、いつも心地よく思う柔らかい肌に湯の中で密着すると更に心地よさが増した。気持ちいいな、これからは二人で入ろう。
この体勢で瞼を閉じると、窮屈な姿勢なのにウトウトとしてくる。何度も愛されて体が快適に気だるい。平松と付き合うようになって、一晩に何度も愛されるようになって明らかに悦子の体調は変わった。翌日の化粧のノリが非常に良い。肌も艶があって、〆日近くの激務に襲われても、彼に抱かれるだけでそれまで朝起きるとできがちだったフキデモノともおさらばすることができている。何より痩せた。チーフになってから食に逃げていたから徐々に肉が付いていたのが悦子が理想としてキープしたいと思っている体重に戻った。重さだけの話ではない。身が締まって自慢のスタイルになっている。
(やっぱり、彼女になるのOKして正解だったのかも)
何度も好きだと言ってもらっているが、悦子の方から好きだとは言ったことはなかった。これを好きといっていいのか、自分でもよくわからなかった。セックスが気持ちいいのは認めるが、それを根拠に好きだというのは平松に対して失礼かもしれないし、恋情とはそういうものかと言われると自信がなかった。
「……こら、おっぱい触るな。人がせっかくウトウト気持ちいいのに」
湯を撥ねさせて前に回された手が、バストを揉みほぐしていた。
「触ってたいから」
私のおっぱいは手持ち無沙汰に触るもんじゃないよ? そうやって愛するモードで体触られるとヤバいんです。
「んっ……」鼻から甘い息を漏らして、また性楽のるつぼへ身を投じていくのを妨げようと、「私、金曜いないから」
「大阪出張でしょ?」
「そう。寂しいでしょ?」
「うん」
そんなことないよっ、ってちょっとは強がってみたら? 嬉しいけど。