2. Sentimental Journey -21
また記憶が曖昧になってくる。しかもいつもより絶望を感じてしまいそうなほど深く、しかし幸せを確かに感じられる喪失感だった。何度絶頂に達したかは数えている気もなくなる。普通の女が味わうことができるエクスタシーを、平松に愛されることではるかに凌ぐほどもたらされていることは幸せ以外の何物でもない。
「あっ、あはっ……、く、……しょ、翔ちゃんっ……」
呼吸も満足にできなくなっている悦子は後ろに手を回して、ずっと背後から突いていた体位を変えようと男茎を一旦抜き取ろうとした平松の体を押しとどめようとした。
「どうしたの?」
「ぬ、抜いちゃだめ……、なんか……」
「ん?」
「……も、漏れる……」
あまりの衝撃を下腹に受けすぎて、悦子の意には関係なく尿意が巻き起こってきていた。意識的に堪えようとしても男茎で完全に崩落した下腹部に力が入らない。「だ、だめっ……」
悦子が言っているのに、平松はそのまま一番太い部分である男茎を抜き取ってしまった。体内を広げていた男茎がいなくなると、栓を失ったような気がして一気に心もとなくなり、膀胱が生理現象を訴えてくる。
「やあっ、翔ちゃん、ト、トイレ……」
身を起こしてベッドを降りようとする悦子を抱きとめ、後ろから脇の下を両腕を巡らせて、ブラ越しにバストを荒々しく揉みしだいてくる。立膝のままベッドに留まらされた悦子は、
「おねがいっ、で、出ちゃうって……!」
首を後ろに向けて平松に懇願しようとしたら、そこを狙われて深いキスをされた。そうしている間にも尿意はすんでのところまで来ていて内ももがふるふると震えた。
「ここで出して」
「だっ……、や、べ、ベッドが……」
「いいから」片手で忽ち硬くなった乳首の場所を的確に捉えつつ、バストを揉みしだかれて耳元で、「お漏らしして?」
平松はもう一方の手を悦子の下腹部に巡らせて、乱暴に捩れて乱れていたTバックショーツの縁から指を入れると、元どおりに正しい形でピッタリと悦子の下肢を収まらせる。
「ほ、ほんと、出ちゃうぅっ!」
天を仰いで訴える悦子の正面へ回ってきた。狂乱しそうになっている悦子の頬を両手で挟んで自分のほうを向かせて、不意にちょん、と優しいキスをしてきた。
「悦子、見たいんだ。誰にも見せたことのない悦子が」
「うっ、だって……」
「してくれたら、今度は前からいっぱい突いてあげる。体押さえつけて。……悦子が大好きなヤリ方。好きでしょ?」
平松とのセックスで初めて味わった、男に組み敷かれながら抱かれる体位が思い出されて、悦子は朦朧と正気を失いつつ、
「ほんとにしてくれる……?」
「いいよ。……ほら、悦子」
愛しみの微笑みで見つめ返されて、甘い溜息を漏らした悦子だったが、頬から離れた片手がショーツの上から下腹を押して刺激してこられると、
「うあっ……、で、……やあっ」
今日トイレに行ったのはいつだったろう。そんなことを思い出す暇もなく、尿道口が緩んで少し漏れて愛液に浸るクロッチに排泄の雫を混ぜた。少しずつ、なるべく恥しくないように排出したかったが、一度緩めて迸らせてしまうと、あとは箍がきかなかった。溢れ出てきた聖水は、クロッチの布地だけで防げるものではなく、外まで染み出してくると、媚丘の頂点から真下に向かって奔流を垂れ溢し、その流れに収まりきらないほどに本格的に排泄が始まると、左右に逃げてショーツの両側から内ももを流れ落ちていく。
「はあっ……、……、あぁ……」
人前で、しかも着衣のままで排泄をする汚辱と、尿意が満たされる快楽にない交ぜの溜息をつきながら悦子は排尿を続けていた。漸く収まってきても、瞼を開くことができない。目の前には愛を訴えた相手がいるのだ。
「いっぱい出したね」
「やっ……、お、お願い、嫌いにならないで」
「ならないよ」
涙をこぼす悦子に平松は濃厚だが柔和なキスをして、「言うとおりしてくれてうれしい。すごく可愛いよ」
「ほ、ほんと……?」
何とか目を開いた悦子は少女のような眼差しで平松を見つめ返していた。
「うん。もっと好きになった」
「ん……」
平松の首に両手を巡らせ、キスに舌を絡めて悦子は、好き、とくぐもった声で何度も言った。
「いっぱいしよ? 何も気にせず」
今は歳の差は気にしなくていい。上司であることも気にしなくていい。恋情を伝え合って、恋人であることを契った仲だ。その二人がセックスすることに何のしがらみがあるのだろう。不都合を問われても悦子には何も答えることはなくなった。
「うん」
「思いっきりするよ」
平松は悦子の漏らした聖水が広がるシーツの上に、その主を押し倒すと、まだストッキングに包まれている美脚を大きく開かせた。いつの間にかリュックの中から出していたコンドームの箱を悦子の顔の側に置く。まだたくさんある、と安堵をおぼえながら悦子は平松が膝の裏に両手を引っ掛けるように覆いかぶさってくると、開かれたまま大胆な体勢にされるのに素直に従っていた。