狙われた主任 1-4
裕也と同じく、田中の部屋も会社が借り上げて家賃を一部負担してくれている。
マンションではないので、オートロックの共用ドアはなく各部屋のドアから直接出入りする造りで、その2階の一番奥が田中の部屋だった。
カツン‥カツン‥カツン‥
外の階段を上がる靴の音が響く。
ガチャ‥ッ
田中はドアの鍵を開け、玄関のライトを点けると主任を招き入れた。
「あら、意外と綺麗にしてるのね!」
整頓された靴や可愛いらしい玄関マットを見て、主任が第一印象を口にする。
「一応きれい好きで(笑)」
「へぇ〜意外‥。それじゃ、お邪魔しま−す!」
田中は主任をリビングに通しながら、何を飲みたいか尋ねた。
「別にお酒じゃなくてもいいわ、何かさっぱりすれば‥」
「じゃ、用意しますんでそっちで座ってて下さい♪」
田中は隣のキッチンで準備を始めた。
(フッ、さっぱりと口当たりは良いけど、しっかり度数の高いヤツを飲ませてやるか!)
田中は何種類かストックしてあるカクテルのベースで、“スクリュー・ドライバー”や“ロングアイランド・アイスティー”などを作れるし、実際、大学時代に出逢いのあった人妻をバーや部屋で酔わせてモノにしてきた経験が何度かある。
今夜はその中でも特製のカクテル“ルシアン”
ジンとウォッカをカカオの甘さで包んだレディー・キラーの中でも有名なカクテル。
「甘くて口に合うかどうか‥」
リビングのカーペットに座ってくつろぐ主任に差し出した。
「なにこれ?お酒?お酒はもういいのにぃ‥」
「いや、甘くてさっぱりですよ!そんなに入ってないし‥」
一口、二口‥味見するように主任が口に含む。
「ン!ン〜ッ!?」
「ダメっすかね?」
「うッそ〜美味しーい♪これ、なんていうの?」
「“ルシアン”ってソフトドリンクみたいなもんですよ!甘いんでこれと相性良いですよ‥」
田中はウソをつきながら、エスニックなスナック菓子を添えた。
(辛くて喉が渇けば何杯かおかわりするだろうしな!)
「俺は缶ビール飲みたいんで‥とりあえず乾杯しましょう!」